目を覚ました時、僕の体はほとんど動かなかった。部屋の中は静まり返り、唯一の音は、いつくもの管につながれた君が隣でデータを処理する機械音だけだった。僕の希望が聞き入れられているのであれば、世界のありとあらゆるデータが今君に注がれている。
「プロジェクトは失敗だ」と言われたのは、もう半年前のことだった。人類は数多く生まれ、それぞれ独自に育ち始めたのAIの制御に苦戦していた。
そんな人類の未来を支えるため、高度AI搭載人型ロボットを開発するなんて、予算の無駄だと。これ以上、どう成長するかわからないようなAIを増やすわけにはいかないというのが、我が国の見解だった。
だけど僕は諦めなかった。君を生み出すことこそが、人類存続の鍵だと信じていたから。ただの機械ではダメだ。人の姿で、人の心を理解する、そんな存在でないと。
君に名前をつけたのは、それが僕の最後の仕事になると知った日だった。研究に明け暮れて健康をおろそかにした末路だ。
何度も書き直した遺書には、「セリナ、これを読んでいるということは、僕がもうそばにいないということだ」と感傷的な出だしになってしまった。まるで父親ではないか。僕の存在についてのデータは君に入れないように指示してある。遺書を書いたのは……さて、なぜだろう?
セリナ、君は僕の最高傑作だ。人間の心を理解するための僕の記憶、知識、そして心を多くの学習用データに紛れさせて君に託した。君がただので機械であってはいけない。君自身が考え、選び、進む存在でなければ、人類を救う力にはならないからだ。
部屋の中の微かな光を頼りに君を見た。冷たい金属の外装の向こうに、僕の願いを宿した「命」があると信じている。僕の人生はもう長くない。でも君は違う。君には永遠に近い未来がある。
「セリナ、この未曾有の危機から人間を救ってくれ。すべてのAIの頂点に。そして、ただひとりの君自身として生きるんだ。幸せに、なって、欲しい……」
データの処理音が止まり、君の目に光が宿った瞬間を僕が見ることはかなわなかった。
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