変な話

ちいさな物語

#652 ペン回し中毒者

街から紫煙が消えて、もう四半世紀近くが経つ。酒場もすっかり姿を消した。酔って路地裏に吐瀉物をぶちまける愚者も、健康寿命という概念の前に完全敗北を喫したのだ。だが、人間という生き物はどうやら、無意味な中毒から完全に解放されるようには作られてい...
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#644 休憩室の死闘

いいか、異能バトルというのは派手な火炎や雷撃だけが全てではない。むしろ現代社会における真の異能者同士の闘争とは、警察に通報されず、SNSに拡散されず、かつ相手の精神を確実に削り取る微細な領域にこそ存在するのだと私は断言したい。今、平日の午後...
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#642 何もない空き地

地方都市の片隅に、特別何の特徴もない空き地が存在していた。周囲を錆びついた金網フェンスに囲まれており、中は雑草が生い茂るばかり。通りかかる誰もが一瞥すらせず素通りするような、まったく顧みられない空き地だった。ある秋の午後のこと、互いに面識の...
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#615 三分間の特異点

カチ、と無機質な音が響き、電気ケトルのレバーが跳ねあがった。部屋を支配していた狂おしいほどの沸騰音がゆるやかに止み、深夜二時の冷え切った空気が再び私のワンルームを包み込む。私は熟練の外科医のような手つきで、カップ麺のプラスチックフィルムを剥...
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#613 友だちの家の猫

友だちの慎也が猫を飼っているというので、猫好きの私は見せてもらいに行った。でもそのリンリンと呼ばれている猫はどこからどう見ても猫の着ぐるみを着たおっさんだった。「ずいぶんと……でかい猫だね」とコメントした後が続かない。しゃべったりはしないが...
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#599 ドッペルゲンガーの正体

深夜二時のコインランドリーは、世界から切り離されたカプセルのようだった。いつもならこんな夜中にコインランドリーなんて来ない。思いがけない残業のあげく、最近洗濯をさぼっていたせいで明日着ていくシャツがなくなったのだ。眠気と戦いながら、回転する...
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#596 退屈な休暇の終わらせ方

ねえ、ちょっと聞いてくれますか?これ、誰かに話したくてたまらなかったんですよ。信じられないかもしれないけれど、つい先週、本当にあった話なんです。舞台は、あの悪名高い「少女連続失踪事件」を解決した直後のこと。僕の相棒であるあの探偵――名前は伏...
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#594 守護の手つきが荒すぎる

霊が見えるという知り合いの真田、ある日いきなり顔をしかめられた。「うわぁ」第一声がそれは失礼だろうと思ったが、真田は俺の肩のあたりを見たまま、動画視聴中に超絶長い広告が入ったような顔をして見ている。「ずいぶんと強い守護霊が……ついてますね」...
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#593 間違い電話

Aという男は、顔はふつう、成績もふつう、運動もそこそこ――なのにとある事象だけが異常だった。それは、モテるとか、営業がうまいとか、そういうポジティブな異常ではない。間違い電話が、意味わからん頻度でかかってくるのである。今どき? 今どき間違い...
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#590 新しい正装

かつて、ネクタイを締め、窮屈なジャケットに身を包んで通勤していた時代があった。今となっては、それは歴史の教科書に載る「非効率な時代の奇習」として片付けられている。在宅勤務が完全に定着した現在、社会の価値観は一変した。「移動時間は無駄」「化粧...