ちいさな物語

#528 異世界ツアー案内人

あ、どうも。僕は異世界旅行社の添乗員をやってる者です。正式名称は「時空観光案内人」。担当はファンタジー世界。だけどまあ、だいたいの人は「ガイドの人」といったらわかりますかね。仕事の内容?一言で言えば、別世界へ行きたい人たちを連れて、安全(※...
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#527 喫茶メルヘン堂

駅前の大型ショッピングモールから少し離れた路地に、「喫茶メルヘン堂」という店がある。昭和のまま時間が止まったような喫茶店で、看板は色あせ、ドアはきしみ、テーブルは小さくて、椅子は座るたびにミシッと悲鳴をあげる。初めてその店を見かけたとき僕は...
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#526 アニマルファンタジー

登山を決行した朝は、ひんやりした空気に満ちていた。俺たち四人は久しぶりに会って、楽しく山を登っていた。大学で出会い、サークル活動を通して仲良くなり、長い時間を一緒に過ごした四人組。就職して半年、ようやく予定が合って登山の計画を立てることが出...
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#525 回転ドアが終わらない

駅ビルの入口にある回転ドアは、ごく普通のガラス製だった。そのときも、いつもと変わらないように見えた。それなのに――用事を済ませた私がドアへ足を踏み入れた瞬間、空気がひやりと反転したような感覚が走った。外は寒いのかもしれないと思いながら、半周...
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#524 きのこ侵略

森の入り口に、見たこともない色のきのこが生えていた。そのことには意外と多くの人が気づいていたが、それが胞子を吐き出し始めた瞬間から、すべてが狂い始めたのだった。はじめは地元ニュースでのんきに「珍しいきのこです!」なんて報道していたが、翌週に...
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#523 山からなんか来た

山からなんかきた日、俺はちょうどプリンを食べていたが、そのことはこのエピソードにまったく関係ない。とにかくそれは突然、町の放送スピーカーから始まった。「えー……山から……なんか来ています。以上」以上じゃない。「なんか」ってなんなんだよ。熊か...
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#522 永遠にかくれんぼ

夏の夕暮れ、校庭の裏で始まった、ただのかくれんぼがすべての始まりだった。私が十歳のとき、同級生の子供たちと遊んでいた。鬼になったハルは目をつぶって十秒数えはじめ、私たちは散り散りに逃げた。その日、私は用具倉庫の裏に身を潜めていた。鬼が動き出...
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#521 山賊と肩甲骨と納豆

あの日、山に入ったのはほんの気まぐれだった。ちょっと散歩、くらいのものだ。秋の終わりで、木々は赤く、風がやけに澄んでいた。弁当の包みには、祖母が持たせてくれた小さな納豆の包みが入っていた。「山で食う納豆はうまいぞ」と祖母は笑っていた。とりあ...
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#520 祝祭のティールーム

そのティールームに入ったのは偶然でした。会社帰り、雨に追われるようにして駅前の裏道へ入り、古いレンガの隙間から漏れる明かりに引き寄せられたんです。木製の小さな看板には「景色が見えるお茶のお店」と書かれていました。その意味がわからないまま扉を...
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#519 隣の鳩

ベランダや手すり、エアコンの室外機、その隅々まで白や灰色の斑点が散らばっている。昨日の夕方に掃除したばかりなのに、もうこんなに汚れている。「チッ……」俺は舌打ちして窓を閉めた。原因はわかっている。隣に住む、あのじじいだ。じじいのベランダには...