一人暮らしが味気なくて、何となくペットショップに立ち寄った。動物を飼うつもりはなかったが、動物と暮らす自分を想像をしてみてもいいかもしれないとふと思ったのだ。
そこで出会ったのは、少し変わった模様のハムスターだった。背中に広がる斑点は、まるで星座を描いたような形をしている。店員は「人気種なんですが、模様がめずらしくて……人気がないんです」と言った。
確かに星座のようなといえばきれいに聞こえるもしれないが、ようは雑多なぶつぶつ模様である。しかし私はなぜかそのハムスターを選ばずにはいられなかった。
家に帰り、手のひらに乗せて眺めると、ハムスターはもぞもぞと動く。その動きに合わせて、背中の星座模様が不思議に輝いて見えた。そして驚いたことに、その輝きが私の部屋全体に広がり、壁や天井に無数の星が投影されたのだ。
最初は目の錯覚だと思った。けれど手を動かすたびに星たちの位置が変わり、まるでハムスターから宇宙そのものが広がっているように感じた。そして、ハムスターがじっと私を見つめると、その小さな瞳に無限の銀河が映り込んでいるのがわかった。
「きみ、何者なんだい?」
問いかける私に答えるように、ハムスターは小さく鼻を動かした。その瞬間、私の視界が一変した。気づけば、私は星々が漂う広大な宇宙空間に立っていた。
息は……できる。
視界で巨大な星雲がゆっくりと動き、遠く彗星が尾を引いていた。そして手が届きそうなところに地球が見える。こんなことをいったらベタだけれど、本当に青くて美しい。他の星々と比べても別格だ。思わず「ほぅ」と息がもれた。
手のひらの上にはまだハムスターが乗っているが、その背中の模様がさらに強く輝いている。
「きみがこの世界を作っているの?」とつぶやくと、ハムスターは静かに頷いたように見えた。そしてまた鼻を動かすと、私は元の部屋に戻っていた。
それからというもの、私は毎晩ハムスターを手のひらに乗せ、部屋を満たす宇宙を眺めるのが日課になった。見られる景色は毎晩違う。地球が見える日もあれば見えない日もある。図鑑で知っている土星や木星らしき星も間近で見たし、まったく知らない惑星もあった。
彼が何者で、何の目的で宇宙を見せてくれるのかわからない。ただ、彼の背中に広がる宇宙は、私の心を不思議な安らぎで満たしてくれる。
この小さな生命体が見せてくれる宇宙は、きっと私だけの秘密だろう。
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