昨夜は気の置けない友人たちと宅飲み鍋パーティだった。しかし気がつけばソファで寝ていて、僕の顔には見事なまでの「芸術」が施されている。
左頬にはへのへのもへじの何やら卑猥なマーク。右頬には萌え絵風の女の子。おでこには「休暇中」と大きく書かれている。さらにあごには「わがままボディ」という文字が斜めに踊る。
「これ絶対にタクヤの仕業だろ!」
僕は雑魚寝している友人タクヤを叩き起こして問い詰めた。だがタクヤは真顔で否定する。
「いや、俺じゃないって。そもそもお前、目を閉じたまま自分で描いてたぞ?」
「は?」
「ほら、昨日酔っ払って『俺、目を閉じても絵が描けるんだぜ!』って急に言い出してさ。信じられないから試してみろって言ったら、やり始めたんだよ。」
記憶をたどると何やらうっすらと記憶がよみがえる。確かに僕はみんなの前で「俺の右手は神の手だ!」と謎の宣言をしていた気がする。そして、「瞳を閉ぉじーてぇ」とマイクに見立てた缶ビールをほぼ口にくっつけるようにして歌いながら、自分の顔にらくがきを始めた……かもしれない。
「なんで止めなかったんだよ!」
「止めたけど、『これは芸術家だ!』ってキレたじゃん!」
「なんでそんな言葉信じんだよ!」
「知らねぇよ」
慌てて洗面所で顔を洗ったが、酔って油性マーカーを使ったらしく、全然落ちない。仕方なくマスクをして外出したが、電車内での視線が痛い。どうやらおでこの「休暇中」の文字が前髪の隙間からチラチラ見えるようだ。
結局、その日はずっと誰とも目を合わせられず、帰宅後に鏡を見るたび、自分の才能を呪った。
「もう二度とやらん!」
そう心に誓ったが、翌週の飲み会で再び油性マーカーを握る僕がいた、らしい。
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