まあ、こんなこと人にはあまり言えないけど、私はずっと勇者一行を尾行しているんだ。そう、あの有名な勇者だ。魔王討伐の旅に出たという噂の一団。その行く先をこっそり追いかけ、日々の日記に克明に記している。動機?それはまだ秘密だ。
初日、彼らが出発する村外れの道端で待機していた。勇者はやはり目立つ存在だ。背中に背負った大剣が輝いて見えたし、仲間たちもそれぞれ特異な雰囲気を纏っている。美人魔法使いの立派な杖、勇者に負けず劣らずのイケメン戦士の身軽な動き、そして老僧侶のおだやかな微笑み。私は遠目に彼らを見ながら、すぐに足跡を追い始めた。
驚いたのは、彼らの生活が意外にも地味だということだ。初日の野営では、戦士が周囲を見張り、魔法使いが火をおこし、僧侶が料理を作った。勇者は、近くの小川で水を汲んで戻ってきただけだ。英雄ってもっと華やかなのかと思っていたが、意外にも普通の旅人のようだった。
二日目、彼らは森を抜ける道を選んだ。私は少し離れた茂みから観察していたが、彼らは会話を楽しんでいる様子だった。魔法使いが何か冗談を言い、僧侶がこむずかしい説教をはじめ、勇者が「気楽にいこうぜ」と軽口を叩く。戦士は木々を見上げながら「あれは食べられる果実だ」なんて一人だけズレた話をしていた。
しかし、彼らの生活は慎重そのものだった。例えば、野営の際、焚き火は絶やさないようにして、戦士と僧侶が協力して周辺に罠を仕掛け、魔法使いが結界を張る。どんな些細な危険も見逃さないようにしているみたいだった。
三日目、森を抜けた彼らは川辺で昼食を取っていた。私は遠くの岩陰からその様子を観察していたが、僧侶が手際よくパンを切り分けていたのが印象的だった。魔法使いは呪文の練習をしていて、戦士は川魚を捕まえていた。勇者は仲間たちを視界に入れつつ素振りをしていた。
ただの生活の記録かもしれないが、この尾行を通じて、私は彼らがただ有名な「勇者一行」ではなく、一人一人が「人間」であることを強く感じた。彼らが毎日全力で生きている姿は、どんな物語よりもリアルで、私にとってはかけがえのないものだ。
さあ、明日はどんな一日になるのだろう。私はまた、影から彼らを観察する。そう、私は勇者たちに気づかれていない。なぜなら私が勇者一行よりも強いからだ。私の目的についてはまたおいおいお話しするつもりだが。
コメント