人類はようやく「戦争」という概念を進化させた。それは命を奪う血なまぐさい戦場ではなく、世界中のゲーマーが戦場となる仮想空間で戦う「デジタルウォー」だった。勝敗によって国同士の領土や資源が動く仕組みで、リアルの犠牲者はゼロ。だが、それが平和と言えるかどうかは議論が尽きない。
なぜなら苦労してカスタマイズしたキャラクターが一瞬で消され、場合によっては大きな損害となる。人は死なないが、ゲームでの戦争も争いであるから反対だと主張する人々は一定数いた。
そんな中、アメリカ大統領ハワード・ジョンソンが記者会見で爆弾発言をした。「我が国の誇りを守るため、今回の対戦には私自ら参加する!」その瞬間、全世界のメディアが「どうせパフォーマンスだろう」と失笑。大統領がゲームが得意なんて聞いたことがない。戦闘員はいずれも名うてのゲーマーばかりだ。即終了だろうと噂した。
だが、彼は本気だった。「形から入る」と、スーツ姿からスウェットに着替えたジョンソン大統領は、ウォルマートで大量のインスタント食品とお菓子を買い込むと、大統領専用ゲームルームにこもり、VRヘッドセットを装着。いつの時代のゲーマーのイメージなのかと国民たちはあきれるやら、面白がるやらで話題は尽きない。
画面には「Cyber War 3000」のロゴが輝いている。国中がライブ中継を見守る中、大統領が操作するキャラクターは、なんと全身金色のアーマーに「EAGLE-1」という名前が浮かぶ。ど派手すぎて目立つ。的になっているようなものだ。
ジョンソン大統領からの挑戦を受けた相手国のリーダー、ロシアの大統領イワン・ペトロフも自身が参戦すると宣言。瞬く間に世界中がわきたった。こちらはシンプルな黒いスーツにサングラス姿のキャラクター。渋くて逆に強そうだ。SNSのタイムラインに「センスいい」「応援したくなった」「俺の中で抱かれたい大統領No.1に急上昇」と、好意的なコメントが踊る。そして早くもファンアートや二次創作が生み出され、かつてないスピードで拡散されてゆく。
戦争開始直後、ジョンソンは勢いよく突撃した。だが、いきなり壁にぶつかり、罠の爆発物が発動、HPを大幅に削ってしまう。すでに瀕死である。実況が「ジョンソン大統領、誤操作でしょうか?」「いや、たぶん慣れてないだけですね」と言う中、大統領は必死の操作でドローンを飛ばすも、味方の兵士に誤爆。実況席が静まり返った。
一方のペトロフは無駄のない動きで、次々とジョンソンの兵士たちを撃破。ついにはジョンソンの本陣を包囲し、勝利目前に。だが、そこでジョンソンが奇跡を起こす。ボタンを連打して発動したスーパースキル「アメリカンドリーム」が炸裂。ただの背景だと思われていた自由の女神像が轟音と共に敵陣に突撃! トーチから猛烈な火炎が噴き出し、独立宣言書はブーメランのように敵兵をなぎ払った。ペトロフは「何だこのバカスキルは!」と叫びながらあえなく敗退。
ジョンソン大統領は勝利会見で満面の笑み。「見たか。これがアメリカの力だ!」と宣言するが、国内外のSNSでは「これ、ずるくない?」「ゲーム会社買収してるだろ」「闇深」「金色のアーマーがくそダサい件」「共感性羞恥キタッ!」と大炎上していた。
それでも彼は満足そうにVRヘッドセットを外し、こうつぶやいた。「アメリカ・ファースト」。
コメント