#052 トイレットペーパーの妖精

ちいさな物語

深夜、ふと目が覚めた。

喉が渇いたわけでもない。トイレに行きたいわけでもない。

でも、何かの気配がする。

布団からそっと抜け出し、廊下に出る。
暗闇の中、トイレの扉の隙間から、ぼんやりとした光が漏れていた。

誰かいる……?

恐る恐るドアを開けた。

そこにいたのは——

白く、ふわふわと宙を舞う、小さな存在。

「♪ラ〜ラ〜ララ〜ラ〜ラ〜♪」

……歌っている。

高音で、妙に美しい声だが、なぜか腹が立つ。

よく見れば、それはトイレットペーパーだった。

輪郭がぼやけた妖精のような姿をしているが、確実にトイレットペーパーだ。

「……何?」

恐る恐る声をかけると、妖精はくるりと回転し、こちらを見た。

「私はトイレットペーパーの妖精。名をペパリーナという!」

「……帰ってもらっていい?」

「嫌だ!」

ピシャリと即答された。

仕方なく、話を聞くことにした。

ペパリーナ曰く、彼女はトイレットペーパーの精霊で、人間が紙を大切に使っているか見守る役目を持っているらしい。

「最近、君はトイレットペーパーを雑に扱っている!」

「は?」

「ちぎり方が乱暴!使いすぎ!ダメ、絶対!」

「……そんなことないと思うけど」

「ある!!」

ペパリーナはクルクルと回りながら、歌い出した。

「♪ペーパーは大事♪ 無駄にしちゃダメ〜♪ 環境破壊は〜♪ 許さない〜♪」

うるさい。

「静かにしてくれない?」

「ダメ!!」

それからというもの——

夜中になると、ペパリーナが現れては歌い続けるようになった。

「ペーパーはやさしく ちぎ〜る♪ 力を込めずに ちぎ〜る♪」

やかましい。

何度も追い払おうとしたが、ペパリーナは執拗に歌い続けた。

「ペーパーをムダにする者は、夜な夜なこうして監視されるのだ!」

「呪いかよ……」

寝不足でフラフラになりながら、ふと思った。

(……こいつ、燃やしたら消えるんじゃないか?)

だが、そんな考えが読まれたのか、ペパリーナは涙目になった。

「そんなことをしたら、君のお尻が一生拭けなくなる呪いをかけるよ?」

「それは困る!!」

結局、ペパリーナとの共存生活は続くことになった。

それから数週間後——

俺は驚くほどトイレットペーパーを丁寧に使うようになっていた。

いつの間にかペパリーナの歌も耳に馴染んできた。

「♪やさしくちぎって、くるくるぽん♪」

……今日も夜が来る。

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