#055 インフルエンサー・こた🐶

ちいさな物語

朝起きてスマホを開いた僕は、思わず叫んだ。

「えっ……何これ!?」

SNSのタイムラインに僕の超絶恥ずかしい写真が投稿されていた。

ボサボサ頭でヨダレを垂らして寝ている姿、パンツ一丁で冷蔵庫を漁る姿、変なポーズで踊っている動画まで——。

しかも投稿には、かわいらしい絵文字とともに、

「#大好きなご主人のかわいい写真」

というハッシュタグがつけられている。

……誰だ!? こんなの投稿したのは!?

焦った僕は、すぐに投稿元のアカウントを調べた。

すると、アイコンはうちの飼い犬・コタロウの写真。

名前も「こた🐶」になっている。

まさか……と思いつつ、アカウントの投稿を遡ると、僕の写真ばかりが並んでいた。

「え、え、何これ……」

「ご主人の笑顔が大好き❤️」

「今日もかわいかった🐶✨」

「寝顔も最高💤💕」

「ご主人、テレビとおしゃべり🐶💦大丈夫かな🥺」

クイズ番組を見ながら、食い気味に解答し、直後ガッツポーズしているという短い動画まで勝手にあげられていた。

完全に僕のファンアカウントじゃないか!!

おそるおそるリビングを覗くと、ソファの上でくつろぐコタロウがいた。

「おい、コタロウ……まさか、お前が……?」

コタロウは僕の視線に気づくと、ふわっと尻尾を振り、タブレットを前足でタップした。

「嘘だろ……?」

まさかとは思ったが、確かに目の前で、僕の寝顔写真が新たに投稿された。今朝、撮られていたものらしい。

「#今日もご主人は最高🐶💖」

いやいや、なにこれ!?

どうやらコタロウは、鼻ペタと肉球タッチでタブレットを操作しているらしい。器用すぎるだろ。

思い返せば、最近のスマホやタブレットはペット用アプリも増えていたし、AIアシスタントの精度も上がっていた。

でも、まさかうちの犬がここまで使いこなしていたとは……。

「お前、いつからやってたんだよ……」

コタロウは尻尾を振りながら、タブレットにチラリと視線を落とした。見ろって?

そこには、フォロワー1万人突破のお知らせ通知が表示されていた。

「1万人!?  僕の恥ずかしい写真で!?」

僕はコタロウからタブレットを取り上げる。フォロワーは犬のアイコンが多い。「私の激カワなご主人も見て💕」とあられもない姿で眠っている若い女性の写真がリプでついていて、アカウントを削除しようとしていた手がとまった。

次の瞬間、スマホがブルっと震える。

——「有名ペットインフルエンサー『こた🐶』に企業案件のお知らせ」

僕は絶句した。

コタロウのアカウントには、すでに企業からのスポンサー依頼が来ていたのだ。

僕より稼ぎがいいかもしれない。

コタロウは得意げに尻尾を振っている。

「……お前、まさか狙ってやってる?」

するとコタロウは、タブレットに「ニッコリ笑う僕の写真」をアップし、こうつぶやいた。

「ご主人もだんだん理解してきたみたい🐶✨」

もう、どうしたらいいんだ……。

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