「この肉……どこ産なんだ?」
ステーキナイフを持ちながら、俺はシェフに尋ねた。
「珍しいですよ」シェフはにやりと笑う。「地球では、なかなか食べられませんから」
地球?
噛み締めた瞬間、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。豊潤な香り、深みのある味わい。確かに、これまでに食べたどの肉とも違った。噂どおり素晴らしい肉だ。
「そもそもなんの肉だ? 牛肉とはちょっと違うな」
「それは……お客様が食事を終えた後に」
シェフはウィンクをして、カウンターの向こうへ去った。
店の名は《満天房》。紹介制の超高級レストランでここに来るまで何年もかかった。ここでは「特別な肉」が供されるという噂があり、グルメを気取っていた俺がスルーするわけにはいかなかったのだ。
だが——俺は知らなかった。それが何の肉なのかを。
ワインを飲みながら、他の客を観察する。
どの客も、静かにナイフとフォークを動かし、陶酔した表情で肉を味わっている。その目は、まるで神聖な儀式に参加しているかのように恍惚としていた。
俺の前に座る女が微笑む。
「初めて?」
「ええ、まあ」
「気に入った?」
「……正直、驚くほどに」
「でしょう?」
女は楽しそうにグラスを傾ける。
「この店、二度と来ないって決めるか、一生通い続けるか、そのどちらかよ」
「……どういう意味です?」
彼女は意味ありげに笑う。
「食べ終わったら、わかるわ」
皿を空にすると、シェフが再び現れた。
「食事はお口に合いましたか?」
「ああ、最高だった」
「それはよかった。さて、ではお答えしましょう。この肉の正体を」
シェフが指を鳴らすと、店の奥からウェイターたちが現れた。彼らは銀の蓋を乗せたトレイを持っている。
「では、ご覧ください」
銀の蓋が持ち上げられる——。
そこには、人間に酷似した顔があった。
だが、違う。肌は青白く、眼窩は深く、耳は鋭く尖っている。
「……これは?」
「一般的には宇宙人と呼ばれています」
「冗談だろ?」
「いいえ、彼らは地球に紛れ込んでいます。よくないこともしてますよ。だから時折捕獲される」
俺は冷や汗をかきながら、喉を鳴らした。
「いえね、あまりにも増えたんで駆除するようにと指示されまして、この店を始めたんです」
「し、指示って……誰に?」
「お客様はお聞きにならない方がよろしいですよ」
「た、食べたのはこいつの肉?」
「その通り。いかがでしたか?」
胃の奥から湧き上がる感覚――それは吐き気ではなかった。
俺の体があの肉を求めている。もっと、食べたい、と。
女が、妖艶に微笑む。
「ねえ、あなたもこっち側に来る?」
店内の客たちが一斉にこちらを見る。
俺の答えはすでに決まっていた——。
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