「いや、だからパイナップルはピザに合わないんだって!」
「お前の方こそ、アンチョビの塩辛さを理解してない!」
僕とルームメイトのケンは、ピザのトッピングについて激しく口論していた。もともとは仲のいい大学の同級生だったのに、この問題に関してだけは一歩も譲れない。
「お前のその甘ったるいピザ、デザートかよ!」
「じゃあお前のはどうなんだよ、しょっぱすぎて喉が枯れるわ!」
どちらも譲らないまま、ついには妥協案として何ものせない生地だけを焼くことになった。
オーブンから漂う香ばしい香り。表面はカリッと、中はもっちり。ピザというにはシンプルすぎるが、それでもこれはピザの原点なのかもしれない。
「……じゃあ、食うか」
「……ああ」
二人は無言で皿に取り、恐る恐る口に運んだ。
モチッ。
カリッ。
「……」
「……」
僕たちは顔を見合わせる。何も言えなかった。言葉が出ないほど――旨い。
小麦の甘み、ほんのりとした塩気、酵母の香り。トッピングがないからこそ、素材の純粋な味が際立つ。これまでの論争がすべて無意味に思えるほどだった。
「おい」
「……ああ」
「俺たち、バカだったのか?」
「……かもな」
そうして、二人の間には妙な静寂が訪れた。
次の日、僕たちはスーパーで大量のピザ生地を買い込んだ。トッピングは一切なし。ただの生地。それを焼いて食べるだけ。
ケンと僕は無言で焼き上がりを待った。オーブンの中で膨らむ生地を見ながら、焼き上がるあの旨いピザに思いを馳せる。
一つだけ確かなことがあった。
「トッピングなんて、いらなかったんだな」
「……そうだな」
こうして僕たちは、ピザ論争に終止符を打った。いや、むしろ何ものせないという選択肢が、すべてを超越したのかもしれない。
この旨いピザを振る舞おうとサークルで仲のいいサトシを招いた。
「サトシ、これが僕たちのたどり着いた究極のピザだ」
「たんと食え」
焼き上がったピザを前にサトシは無言で立ちあがる。そして勝手に冷蔵庫を開け、ケチャップとマヨネーズ、ハム、チーズを取り出した。
「何をする」
「目を覚ませ、お前ら。これはピザじゃねぇ」
「違う。トッピングは悪だ」
「そう。それが僕たちの結論」
サトシはそれを無視して、ケチャップ、マヨネーズをぶりぶりとひねり出す。
「なんという暴挙」
「愚かなっ」
僕たちはピザを奪おうとするが、サトシは素早い身のこなしで、ハムとチーズを乱雑にのせ、あろうことが電子レンジにぶち込んだ。
「これだから学のないやつは」
「同じ大学だろうが」
ピロピロという間の抜けた電子レンジの電子音。取り出したピザの上でチーズとマヨネーズの混濁液がくつくつと煮えていた。はじけるチーズの隙間からマグマのようなケチャップがのぞく。
「――旨い」
「旨いな。僕たちは間違っていたのか」
「そうだ。お前たちが食べていたのは、ただの――パンだ」
「パンダ!」
「いや、パン。ブレッド」
「そうか」
僕たちは黙々とハムとケチャップのシンプルなピザを食べ続けた。ピザがなんなのか、よくわからなくなってきた。
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