#082 究極のピザ

ちいさな物語

「いや、だからパイナップルはピザに合わないんだって!」

「お前の方こそ、アンチョビの塩辛さを理解してない!」

僕とルームメイトのケンは、ピザのトッピングについて激しく口論していた。もともとは仲のいい大学の同級生だったのに、この問題に関してだけは一歩も譲れない。

「お前のその甘ったるいピザ、デザートかよ!」

「じゃあお前のはどうなんだよ、しょっぱすぎて喉が枯れるわ!」

どちらも譲らないまま、ついには妥協案として何ものせない生地だけを焼くことになった。

オーブンから漂う香ばしい香り。表面はカリッと、中はもっちり。ピザというにはシンプルすぎるが、それでもこれはピザの原点なのかもしれない。

「……じゃあ、食うか」

「……ああ」

二人は無言で皿に取り、恐る恐る口に運んだ。

モチッ。

カリッ。

「……」

「……」

僕たちは顔を見合わせる。何も言えなかった。言葉が出ないほど――旨い。

小麦の甘み、ほんのりとした塩気、酵母の香り。トッピングがないからこそ、素材の純粋な味が際立つ。これまでの論争がすべて無意味に思えるほどだった。

「おい」

「……ああ」

「俺たち、バカだったのか?」

「……かもな」

そうして、二人の間には妙な静寂が訪れた。

次の日、僕たちはスーパーで大量のピザ生地を買い込んだ。トッピングは一切なし。ただの生地。それを焼いて食べるだけ。

ケンと僕は無言で焼き上がりを待った。オーブンの中で膨らむ生地を見ながら、焼き上がるあの旨いピザに思いを馳せる。

一つだけ確かなことがあった。

「トッピングなんて、いらなかったんだな」

「……そうだな」

こうして僕たちは、ピザ論争に終止符を打った。いや、むしろ何ものせないという選択肢が、すべてを超越したのかもしれない。

この旨いピザを振る舞おうとサークルで仲のいいサトシを招いた。

「サトシ、これが僕たちのたどり着いた究極のピザだ」

「たんと食え」

焼き上がったピザを前にサトシは無言で立ちあがる。そして勝手に冷蔵庫を開け、ケチャップとマヨネーズ、ハム、チーズを取り出した。

「何をする」

「目を覚ませ、お前ら。これはピザじゃねぇ」

「違う。トッピングは悪だ」

「そう。それが僕たちの結論」

サトシはそれを無視して、ケチャップ、マヨネーズをぶりぶりとひねり出す。

「なんという暴挙」

「愚かなっ」

僕たちはピザを奪おうとするが、サトシは素早い身のこなしで、ハムとチーズを乱雑にのせ、あろうことが電子レンジにぶち込んだ。

「これだから学のないやつは」

「同じ大学だろうが」

ピロピロという間の抜けた電子レンジの電子音。取り出したピザの上でチーズとマヨネーズの混濁液がくつくつと煮えていた。はじけるチーズの隙間からマグマのようなケチャップがのぞく。

「――旨い」

「旨いな。僕たちは間違っていたのか」

「そうだ。お前たちが食べていたのは、ただの――パンだ」

「パンダ!」

「いや、パン。ブレッド」

「そうか」

僕たちは黙々とハムとケチャップのシンプルなピザを食べ続けた。ピザがなんなのか、よくわからなくなってきた。

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