#084 生活実態調査の実態

ちいさな物語

ある日、俺のスマホに一通のアンケート結果が届いた。

「全国100万人が答えた生活実態調査」

なんとなく興味が湧き、結果を眺めてみる。すると、開いた瞬間、思わず「は?」と声を漏らした。

——「朝食にワニの肉を食べる人、78%」

嘘だろ? そんなものスーパーで売ってるのを見たことがない。

——「週に3回は三角跳びで移動する、62%」

どういうことだ? そもそも三角跳びってなんだったっけ?

——「月に1回は脳を洗浄する、85%」

脳を? どうやって?
もう意味がわからない。

こんなのデタラメだ。明らかにおかしい。

俺はすぐにSNSを開き調査結果のメールの件を書き出した。そして「このアンケート結果、絶対に間違ってる!」と付けて投稿する。だが、数分もしないうちに返信がつく。

「え? 何が変なの?」
「どこがひっかかってるのか詳細たのむ」
「めっちゃ普通じゃない?」

何が? ワニの肉? 三角跳び? 脳の洗浄?

冗談だろ? 俺はパニックになり、友人に電話をかけた。

「なあ、ワニの肉って本当にみんな食ってるのか?」

「うん、普通に美味しいじゃん?」

「三角跳びって、なんだよ?」

「移動の基本だろ? 何言ってんの?」

「脳の洗浄は?」

「それしないと、思考が詰まるだろ。お前、本当にやってないのか? 汚ねぇなあ」

電話越しの声が急に低くなる。

「お前……本当に大丈夫か?」

俺は言葉に詰まった。

これは何かの冗談だ。俺が騙されてるんだ。

そう思いたかったが、テレビをつけても、新聞を読んでも、すべてのメディアが当たり前のように「ワニの肉のおすすめレシピ」や「三角跳びのコツ」を特集している。

これはおかしい。おかしいのは俺じゃない。世界のほうだ。

そう思った瞬間、スマホに新しい通知が届いた。

「あなたのアンケート回答と社会の乖離が確認されました。調整を開始します」

調整? なんの?

その瞬間、頭がズキンと痛んだ。意識が遠のく。

——翌朝、目を覚ました俺は、ワニの肉を焼きながら、軽く三角跳びで冷蔵庫へ向かった。

そうだ。これが普通だ。何もおかしくない。

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