目が覚めた瞬間、頭の中に奇妙な声が響いた。
──「おめでとうございます。あなたは人生三周目に突入しました」
何だ? 俺は、今、生まれたばかりなのか? 意識だけがはっきりしているが、身体は動かない。赤ん坊だからか? いや、違う。手を見れば、しっかりと大人の形をしている。
──「今回は新たに“得度ポイント”システムが導入されました。前世の行いにより、現在のあなたのポイントは初期値2500です」
得度ポイント? なんだそれは?
混乱していると、目の前に「現在のステータス」と書かれた半透明の画面が現れた。
【名前:藤村 真一】
【人生経験:3周目】
【得度ポイント:2500】
【カルマ:軽度の悪行あり】
……人生経験3周目? そんな馬鹿な。だが、なぜか納得できる部分もある。俺は幼いころから妙に世の中の仕組みが分かる子供だったし、デジャヴを頻繁に感じていた。
──「なお、得度ポイントは善行を積むことで増加し、来世のステータスに影響を与えます。逆に悪行を重ねると減少し、最悪の場合、動物や昆虫への転生が決定されます」
俺は思わず息をのんだ。なるほど、つまりこのポイント制は輪廻転生のシステムというわけか。悪行を減らし、善行を積み上げれば、次の人生でより良いステータスが得られる。ならば、2500というポイントは……うーん、微妙な数字だな。
「すみません、このポイントって、平均値はどれくらいなんですか?」
俺が心の中で質問すると、すぐに音声が返ってきた。
──「平均は3000です」
……ちょっと低いじゃないか。ということは、前世で少し悪さをしたってことか? 思い返せば、まあ、多少ズルをしたことはある。コンビニのレジ横に置いてあったガムを一個盗んだし、駐車場の当て逃げも「バレなきゃいいや」と放置した。人を騙したり、犯罪を犯したりはしなかったが、それでもこのポイントに影響するのか。
「これ、どうやったらポイントが増えるんですか?」
──「善行を積み上げることでポイントが増加します。例えば、困っている人を助ける、寄付をする、命を救う、悟りを開く、などが該当します」
なるほど。つまり、徳を積めば積むほどポイントが上がるわけだな。
俺はふと気になって聞いてみた。
「ちなみに、俺の前世のポイントは?」
──「二周目の人生終了時点では、あなたの得度ポイントは3800でした。しかし、転生前の準備期間における浪費行為により1300ポイントを消費しました」
「浪費行為?」
──「転生前に天界のカジノ『JO-DO』で遊ばれていました」
……俺、そんなことしてたのか? まあ、輪廻転生の合間に娯楽があるのは悪くないが、今になって影響が出るのは勘弁してほしい。
「わかりました。じゃあ、これからポイントを増やせばいいわけですね」
──「その通りです。なお、あなたの今世の最終的な得度ポイントが5000を超えた場合、来世では“人間確定”となります。逆に1000を下回った場合は“人間外ランク”に転落します」
「え? じゃ、1001〜4999だった場合はどうなるの?」
「ポイントの多さが確率に反映された賭けになります」
……嘘。絶対5000は超えたい。よし。ならば、俺は善行を積み、来世をより良いものにするぞ!
そう決意し、俺は行動を開始した。まずは小さなことから始めるべきだろう。電車で席を譲る、ゴミ拾いをする、募金をする……。最初は簡単な行動ばかりだったが、次第に楽しくなってきた。
そして、ある日、駅前で困っている老人を見かけた。手荷物が多く、足元もおぼつかない。ここはチャンスだ! 俺はすかさず駆け寄り、老人を支えながら道を案内した。
──「得度ポイント+50」
よし、増えた!
この調子で徳を積みまくれば、俺は高ポイントを獲得し、次の人生ではより良い環境で生まれ変われるだろう。
だが、人生はそう甘くない。ある日、目の前で道を渡ろうとした女性が、信号無視の車に轢かれそうになった。俺はとっさに飛び出し、彼女を突き飛ばして助けた。
しかし、その瞬間、俺の身体は宙を舞った。
そして、──意識が暗転した。マジかよ。今、ポイントいくつだ?
──「おめでとうございます。あなたは四周目に突入しました」
即転生? いや、まさか知らない間にまたカジノで遊んでないだろうな。
しかし、耳元で再び響くアナウンスには、思わぬ言葉が添えられていた。
──「なお、あなたの三周目の得度ポイントは5200。次回は“人間確定”となります」
俺はほっと息をついた。
しかし、三周目、どんな人生だっただろうか。
得度ポイントに追われてばかりであまりおぼえていない。マイナスポイントに怯え、ポイント獲得になりそうな事案に常に目を光らせていた。
そもそも、人間に転生するのが一番いいって誰が決めたんだ。動物も虫もなってみたらもしかして悪くないのかもしれないし。
おかしな。これ、もしかしてポイント発行者に踊らされているのか。
そのとき、辺りに軽快な音が鳴り響いた。
「よく気づいたな。ステージアップだ」
視界いっぱいに巨大な黄金の仏様がいた。
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