#120 城

ちいさな物語

あれは妙な一日だったよ、ホント。


朝起きたらいきなり城から来たとかいう使者が家の前に立っててさ、ものすごい丁寧な口調で「あなた様をお迎えにあがりました」って言うわけ。


俺、普通の庶民よ? 貴族でもないし、城に縁なんてあるわけないのにさ。人違いじゃないかなって思ったけど、なんか仰々しい書状? みたいのには確かに俺の名前が書いてあるわけ。
しかも聞いたこともない、やたらすごそうな城。え? 聞いたことないよ。俺は学もないし、城とか王様とかそんなん関係ないもん。

とにかく拒否る暇もなく連れて行かれちゃったんだ。着いたらこれまた豪華な門構え。門番が超恭しく出迎えてくれて、「こちらへどうぞ」って、そりゃもうVIP扱いよ。いつものきったない服着てるのによ?

――で、広間に通されると、すっごい立派なヒゲを生やしたお偉そうなおっちゃんが出てきてさ、「君が例の者かね?」って聞いてくるの。

いや待て待て、俺まだ自分がなぜここに呼ばれたのかも知らないのに、「例の者」って何だよ? やっぱり人違いじゃないのかな。

「えっと、すみません。俺、普通の村人ですけど」って言ったら、ヒゲの偉そうなおっちゃん、困った顔して「少々お待ちください」って消えてった。

そのあと別の貴族風のお兄さんが登場。

「申し訳ありませんが、隣の部屋にお越しください」って今度は小さな部屋に通されて、ここは広間よりは落ち着けるけど、調度品? とかやたら高価そうだし、壺ひとつで俺、一生食っていけそう、みたいな? カーテンなんてもう、ドレスみたいな状態。そこには神経質そうな書記官みたいな男が入ってきて「あなたは何のためにお呼び出しされたのでしょうか?」とか真顔で聞いてくるわけ。

「いやいや、こっちが聞きたいですよ!」って頭悪いなりに必死で説明したら、書記官も眉間にシワを寄せて、また「お待ちください」って引っ込んだ。

次に現れたのは派手なドレスのおばちゃんでさ。この人がまた強烈で、「あら、あなたは今日のティーパーティーのお客様じゃない?」って優雅に微笑むわけよ。香水がめちゃくちゃキツいの。鼻がもげ落ちるかと思った。いやいやいや、そこじゃないくて、ティーパーティーときたもんだ。こんなきったない村人指してそれだけは絶対ないだろう。村人のコスプレしてきた貴族に見えます? こちとらガチもんの貧乏村人Aですよ。

だから俺も「知りません」って即答したら、「あらぁ~」って残念そうな顔して、また次の人にパス。だんだん腹たってきますよ、こっちだって。

こうやって俺は城の中をぐるぐる回される羽目になったわけだ。あっちの部屋に行け、こっちの広間へ行け、庭にでろ、テラスに出ろ、噴水の前だ、部屋に戻れ、階段をあがれと、もう目が回る。

「誰か知ってる人いないの!?」って内心キレかけたころ、案内されたのがなんと――王様らしき人の前。

え? 王様っすか?

さすがの俺もびびっちゃうよ。だってこの国で一番偉い人っしょ? 普通、会えなくない?

その王様らしき人、玉座に偉そうに座ってて、なんかもう、オーラすごいわけ。だけど開口一番、こう言ったんだ。

「そなたが例の勇者か?」

――何いってんだ?

「……あ? いえ、違います」

「では、伝説の魔術師?」

「……それも、違います」

「幻の吟遊詩人……?」

「……違います、ね」

なんだかこっちが申し訳なくなってくる。だが、王様なのに、王様の方がすごく申し訳なさそうにいったのさ。

「……正直、なぜそなたがここにいるのか、我々には分からん」

いやいやいや、待てよ!? じゃあ俺、一日中この城で回されまくって、結局なにも用がないってことかよ!? 俺の呆然とした表情に王様は眉根を寄せた。しまった。さすがに怒らせちゃった? ギロチン?

「――まあ、せっかく来たのだから、何か要望はあるか?」

要望? なんで呼び出されたのか、何による間違いなのか問いただしたいところだが、俺はぐっとこらえた。この国で一番偉い人が俺に要望を聞いてくるなんて、こんな機会は万に一つもないことだ。ここは慎重に。

「じゃあ、帰りにお土産とか貰えますか?」

辺りが静まり返った。あ、図々しかった? それともバカかな? とか、思った?

「ふむ。それでいいのか。わかった」

結果、俺は豪華な箱に入ったお菓子と金貨を1枚をもらって、丁重に城から送り出された。

それから村人Aの俺はバカなりに一生懸命考えたんだ。王様が言った「要望」ってもしかしてこの国のあり方とか、王様にこうあってほしいとかそういうことだったんじゃないかなって。いや、絶対そうだよな。何かの手違いとはいえ、せっかく超凡人の村人Aが出てきたのだから、庶民のナマの声みたいのを期待したのかもしれない。そしたら村人Aが「土産になんかくれ」とか言ってきたから、しーんとなっちまった。

それを裏付けるかのように、村には学校が次々と建てられた。子供たちは毎日勉強しているらしい。王様は「村人がアホすぎて、この国やばいかも」って思ったんだな。俺のおかげで子供たちはものすごく賢くて、今度王様を倒す計画を立てているみたいだ。王様はわりといい人だと思うんだけどな。俺には難しくてわからん。

コメント

タイトルとURLをコピーしました