俺が毎日通る道には誰も通らない細い裏道がある。表通りを歩けばいいのに、わざわざそこを使うのは、なんとなくその雰囲気が好きだからだった。古びたレンガの壁が両側に立ち並び、湿った匂いが漂う。昼間でも少し薄暗く、まるで時間が止まったような場所。日陰者の俺にとって落ち着く場所だ。
ある日、俺はその道に奇妙なものを見つけた。
地面のアスファルトの割れ目から、細い草のようなものが生えていた。それ自体は珍しくない。どこにでもある光景だ。
しかし、何かがおかしい。草にしては真っ黒でつるつるしている。それに草の葉って薄っぺらいのが普通だと思うのだが、それは断面が楕円になりそうなほど肉厚だった。
これに似たものをよく知っている。
毛だ。剛毛だ。
俺は思わず後ずさった。
それはただの毛ではなく、拡大した人間の体毛という感じだった。まるで誰かの腕や足から直接生えているかのように、しっかりと地面に根付いている。
気持ち悪い。
しかし何度も見ていると、見慣れてきて、次第に面白くなってきた。誰かのいたずらかもしれないし、珍しい植物の可能性もある。
俺はその日から、毎日その道を通るたびに観察することにした。
そして、さらに数日後——。
毛が増えていた。
数本だったはずが、今では道の端にびっしりと生えていた。それも長く伸びていて、指くらいの太さがある。
あまりの事態に動揺したが、抗いがたい好奇心もわいてくる。俺はとうとうその毛に触れてみることにした。
指でつまむと、根元の方が少し動いた。まるで生き物のように、かすかに蠢く。引っ張ると、ゾリッという音を立てて、毛が引き抜けた。
顔を近づけてそれをじっと観察してみる。
根元には……白い肉片のようなものがついていた。これは毛根では?
人間の皮膚の一部のようなそれは、気のせいか脈打っているように見える。
——ここは、何か巨大な生き物の「一部」なのか? 俺は辺りを見渡す。もちろんこの剛毛が生えているところ以外はごく普通の路地だ。生き物めいたところはない。
背筋が寒くなり、俺は慌てて毛を捨て、その場を離れた。
翌日、俺はもうその道を通らないと決めた。
だが、気になってしまう。
さらに翌朝、恐る恐るその裏道を覗くと——
俺は見てしまった。
毛はさらに増え、まるで頭皮を拡大して見ているようになっている。この路地は一体どうしてしまったんだ。
そして――、そこから少し離れた一角に奇妙に縮れた毛が生え始めていた。
え? 陰毛?
俺はただ走って逃げた。
それ以来、その道には近づいていない。
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