昔々、ある山のふもとの村での話じゃ。
その村は山深くての、猟師の獲物になる獣や山の恵みもあって、年中食べ物に困ることはなかった。しかし、ある年、大きな干ばつがあったそうな。畑は枯れ果て、米も野菜も取れなくなり、たのみの山の恵みもさっぱりで、村人たちはお腹をすかせて困り果てておった。
村には、太助という男がおってな。この男、力持ちだが食いしん坊で、腹が減って仕方がないと、ある日ひとり山へ食べ物を探しに入ったそうな。ところが太助、あまりにも山の奥の方まで入り込んで迷ってしもうた。
「腹も減ったし、こんなところまで入ってきてしまって、山の神様のお怒りを買うかもしれん……」と、しょんぼり歩いておったその時、ふいに目の前がぱあっと開けたそうな。
そこは、なんと見渡すかぎりのおむすび畑じゃった。そう、畑に野菜がなるように、おむすびがぽこぽこ土から顔を出していたんじゃ。
「おお、これはありがてぇ!」
太助は喜んで飛びつき、すぐにおむすびを頬張った。そのおむすびがまたうまいのなんの。米は贅沢な白米でふんわり甘く、具も梅干しに鮭に昆布、好きなものが選び放題。
夢中になって食べておると、ふいに後ろから小さな声がした。
「おいしいかの?」
振り返ると、そこには手のひらほどの小さな神様が立っておった。太助はすぐに神様だとわかったそうな。顔は赤く、体は丸っこくて、おむすびみたいにふわっとしておる。そんな人間はおらんからな。もののけか神様かどちらかじゃ。
「あんた、山の神様かね?」
太助が尋ねると、神様はちょっと恥ずかしそうに頷いた。
「うむ、そうじゃ。最近村人が困っておると聞いての。わしにできるのはこれぐらいじゃが……」
それを聞いた太助、ありがたくて涙が出てきた。
「ありがとうございます。村のみんなにも知らせたい!」
「そうか、それなら好きなだけ持って帰るがよい」
神様は優しく笑った。
太助は大きなかごに入るだけおむすびを入れて、村に帰った。腹をすかせた村人たちは大いに喜んだそうな。
干ばつはなんとかおさまり、再び村が豊かになったあとも、村人たちは山の神様に感謝して、毎年おむすびを作って供えるようになったんじゃ。
そしてある日、供えたおむすびがいつのまにかなくなっておってな。そのかわり、小さな足跡がぽつぽつ山へ続いていたそうじゃ。
「ああ、山の神様が来てくださったんじゃなぁ」
村人たちは嬉しそうに笑ったという。それ以来、村では誰もが食べ物に困らなくなったとさ。めでたし、めでたし。
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