#135 山の神様とおむすび畑

ちいさな物語

昔々、ある山のふもとの村での話じゃ。

その村は山深くての、猟師の獲物になる獣や山の恵みもあって、年中食べ物に困ることはなかった。しかし、ある年、大きな干ばつがあったそうな。畑は枯れ果て、米も野菜も取れなくなり、たのみの山の恵みもさっぱりで、村人たちはお腹をすかせて困り果てておった。

村には、太助という男がおってな。この男、力持ちだが食いしん坊で、腹が減って仕方がないと、ある日ひとり山へ食べ物を探しに入ったそうな。ところが太助、あまりにも山の奥の方まで入り込んで迷ってしもうた。

「腹も減ったし、こんなところまで入ってきてしまって、山の神様のお怒りを買うかもしれん……」と、しょんぼり歩いておったその時、ふいに目の前がぱあっと開けたそうな。

そこは、なんと見渡すかぎりのおむすび畑じゃった。そう、畑に野菜がなるように、おむすびがぽこぽこ土から顔を出していたんじゃ。

「おお、これはありがてぇ!」

太助は喜んで飛びつき、すぐにおむすびを頬張った。そのおむすびがまたうまいのなんの。米は贅沢な白米でふんわり甘く、具も梅干しに鮭に昆布、好きなものが選び放題。

夢中になって食べておると、ふいに後ろから小さな声がした。

「おいしいかの?」

振り返ると、そこには手のひらほどの小さな神様が立っておった。太助はすぐに神様だとわかったそうな。顔は赤く、体は丸っこくて、おむすびみたいにふわっとしておる。そんな人間はおらんからな。もののけか神様かどちらかじゃ。

「あんた、山の神様かね?」

太助が尋ねると、神様はちょっと恥ずかしそうに頷いた。

「うむ、そうじゃ。最近村人が困っておると聞いての。わしにできるのはこれぐらいじゃが……」

それを聞いた太助、ありがたくて涙が出てきた。

「ありがとうございます。村のみんなにも知らせたい!」

「そうか、それなら好きなだけ持って帰るがよい」

神様は優しく笑った。

太助は大きなかごに入るだけおむすびを入れて、村に帰った。腹をすかせた村人たちは大いに喜んだそうな。

干ばつはなんとかおさまり、再び村が豊かになったあとも、村人たちは山の神様に感謝して、毎年おむすびを作って供えるようになったんじゃ。

そしてある日、供えたおむすびがいつのまにかなくなっておってな。そのかわり、小さな足跡がぽつぽつ山へ続いていたそうじゃ。

「ああ、山の神様が来てくださったんじゃなぁ」

村人たちは嬉しそうに笑ったという。それ以来、村では誰もが食べ物に困らなくなったとさ。めでたし、めでたし。

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