#138 芽吹く荷物

ちいさな物語

その荷物が届いたのは、雨の降る夕方だった。

玄関の前に置かれた段ボール箱。宛名には僕の名前と住所が書かれていたが、差出人の欄はかすれて読めない。通販を頼んだ覚えはないが、もしかしたら家族の誰かが注文したものを仕送りとしてそのまま転送した、とか?

とりあえず中を確認すると、中身はジャガイモだった。

大きさも形も不揃いなジャガイモがぎっしりと詰まっている。土の匂いがほのかに香り、手に取るとまだ湿っているようだった。

仕送りにしてはめんどくさいものを送ってきた。すぐに実家に電話をするが誰も身に覚えがないらしい。最近流行りの詐欺とかかもしれない。

特に伝票もなく、差出人に問い合わせる手段もない。考えるのが面倒になって、段ボールごと放置した。

それから三日後。

何気なく箱を見たとき、違和感に気づいた。

ジャガイモから、芽が伸びていた——いや、伸びすぎていた。

しかもこの芽は異様に太く、まるでツル植物のように絡み合いながら急成長していた。すでに箱からはみ出し、床を這うように広がっている。これは自分が知っているジャガイモの芽とは全然違う。

「気味が悪いな……」

少し怖くなって、そのジャガイモを捨てることにした。しかし、持ち上げようとした瞬間、そのツルが僕の手に絡みついた。

「——ッ!」

驚いて手を振り払うと、ツルは粘着質な感触を残してぼたっと床に落ちた。妙な汗が背中を伝う。このツル、意思をもっている?

捨てるのはいったん保留にしてその日は休むことにしたが、翌朝、僕は信じられない光景を目にした。

ツルが部屋中に広がっている。

壁を伝い、天井に絡みつき、まるでこの部屋を支配するように伸びている。しかも、芽の先には——目があった。

小さな黒い点のようなものが無数に並び、まるでこちらを見つめているようだった。

「集合体恐怖症!」

その瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

ドアの向こうから、異様に低い声がした。なんか気配もおかしい。

「お預けした荷物を回収に来ました。――どうですか? 元気に育っていますか?」

僕は息を呑んだ。

扉を開けるべきか、開けざるべきか——。

その間にも、ツルはじわじわと僕の足元へ伸びてきていた。

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