「我々って、もしかして脇役ですか?」
そんな疑惑が冒険の最中に浮上したのは、仲間たちが焚き火を囲んだある夜のことだった。
一応、魔王討伐を掲げてはいるものの、勇者でも賢者でもない、戦士でもない。はたまた謎めいた美しき姫君でもなければ、魔王討伐を直接王様に依頼されたわけでもなかった。
我々はただ訪れた村で雑用をこなしたり、通りすがりの人たちに決まったセリフを言ったりしていた。
「考えてもみろ、俺たちっていつも誰かにヒントを与えるだけだろ?」
軽装の盗賊、レノは焚き火に小枝を放り投げながら言った。
「あぁ、言われてみれば、確かに。昨日も勇者一行が酒場に来て、俺たちはそろって『いつものセリフ』を言っただけだ」
僧侶のティナが困ったように答える。
「そうよね、私たちが戦いに直接加わったことなんて一度もないわ。戦っている人たちを横で見てたことはあるけど」
弓使いのシエナも思い返して、深刻な表情になる。
「おかしいと思ったんだ。最近同じセリフしか言ってない気がしてさ」
レノは顎をさすりながらうめくように呟いた。
実際、彼らはここ数ヶ月、誰かを助けたり、怪物の弱点を教えたりするだけの日々だった。
セリフはなぜかぱっと頭に浮かび、同じことを10回くらい言うこともある。
先日は勇者一行が「ごめん、ニセ勇者御一行様! また忘れちゃって。北のダンジョンの中のパネル、どういう順に並び替えるって?」と頭をかいていたことが3度あった。
「ニセ勇者御一行様」と呼ばれているが、そこはスルーしなくてはならないことになっている。なぜかわからないが。
そういえば、敵に襲われてもいつの間にか勇者たちの助けが入り戦わずして勝つ、重要な宝箱も気づけば開けられていた。
まるで世界が彼らの意思とは関係なく、進んでいるかのように。
「そもそも俺たち、本当に自分の意思で動いているのかな?」
レノの問いに、場が静まる。
そう言われれば、焚き火を囲む彼らは皆、どこかぎこちない表情を浮かべていた。
決められた位置に立ち、決められたように話す――そんな不自然さがそこにあった。どこへ向かえばいいのかもなぜかわかっていた。
沈黙が流れた後、ティナが小さな声で口を開いた。
「もし、私たちが本当に脇役だとしても、それって悲しいことかしら?」
仲間たちは顔を見合わせる。
「私たちは、きっと物語を支える存在なんだわ。派手じゃないかもしれないけど、それでも誰かの役に立っているなら、それでいいじゃない」
ティナは優しく微笑んだ。
その言葉に、焚き火の炎が温かく彼らの顔を照らす。
レノもシエナも、ふと肩の力が抜けたように笑った。
その瞬間、すぐそばの茂みから、勇者たちが息を切らしながら現れた。
「おお、またいた! ニセ勇者御一行様! いっつもいいところで会うよね。あのさ、道を間違えちゃって。村、どこ?」
仲間たちは「出番だ」と目だけで笑い合った。
「しょうがない連中だ。それで勇者を名乗るなんてなぁ!」
レノが立ち上がってセリフを読みあげる。
彼らは再び、物語の裏側に戻っていく。誰も見ていない場所でひっそりと、それでも世界の片隅で確かに物語を支えるために――。
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