これはな、わしの村に昔から伝わっとる不思議なお話じゃ。
その村のはずれにある山には、一匹の赤鬼が住んどった。
鬼と聞けば怖いかもしれんが、この赤鬼は心の優しい、ちいと変わった鬼じゃった。
村で誰かが悲しくて涙を流しとると、赤鬼はどこからともなくやって来て、小さな瓢箪(ひょうたん)でポツリポツリと涙を拾うんじゃ。
「泣かなくていいぞ、涙はわしが拾ってやる」
すると不思議なことに、涙を拾われた者は悲しい気持ちがスーッと消えてしまうんじゃ。
ある日、村の子供がかわいがっていた犬を亡くして泣いておった。すると赤鬼が現れた。
「坊や、涙を拾ってやるから泣かんでいいぞ」
子供は赤鬼の優しい言葉にほっとして、悲しみが薄れていった。
またある時は、娘がお嫁に行くのが寂しくて泣く母親の元へも、赤鬼はやってきた。
「母ちゃん、娘は幸せになる。だから泣かんでいいぞ」
赤鬼はそう言いながら涙を拾い、その母親もやがて笑顔になったそうじゃ。
村人たちは赤鬼のことが大好きじゃったが、誰も赤鬼がどこから来るのか、なぜ涙を拾うのかは知らんかった。
ある晩のこと、わしは気になってこっそり赤鬼の後をつけてみたんじゃ。
すると、赤鬼は涙を拾った瓢箪を抱えて山の奥へと帰っていった。
山奥には、小さな池があってな、赤鬼はその池に拾った涙をそっと流し込んだんじゃ。
池は月の光でキラキラ輝いて、まるで星空みたいじゃった。赤鬼はその池を眺めて、にっこり笑った。
「人の悲しみはなかなか消えぬもの。だがこうして集めれば、きっとどこかで美しい光になる」
赤鬼はそう言っておった。
わしはその様子を見て、赤鬼がなぜ涙を拾うのかようやくわかった。
赤鬼は人の悲しみがただ消えるだけでなく、美しいものに変わって欲しいと願っとったんじゃ。
それから月日は流れ、赤鬼はもう村には降りてこなくなったが、村人たちは今でも涙を流すと赤鬼を思い出すすると悲しみは自然と和らぐんじゃ。
そして夜空を見上げると、星々がキラキラ輝いて見える時があるじゃろ?
あれはきっと、赤鬼が拾い集めた涙が空へと昇り、星になったんじゃとわしは思っとる。
だから村人たちは星を見るたびにこう言うんじゃ。
「ああ、赤鬼がまた涙を星に変えてくれた」
優しい赤鬼のおかげで、村はいつも笑顔が絶えなかったとさ。めでたし、めでたし。
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