「昨日、デート楽しかったんでしょ? あの人、いい感じ?」
近所に住む叔母が不意に私に聞いてきた。驚きで喉が詰まった。
確かに昨日、初めてのデートだったが、誰にも話していない。
「どうしてそれを?」
叔母はいたずらっぽく笑っている。
「そんなのすぐわかるわよ。親戚だもの」
だが、それは嘘だ。
母親にさえ知らせていないデートのことを、どうして叔母が知っているのか。
叔母は昔から私との距離感が異常だった。
幼い頃から私の成績や交友関係、友達とのケンカの原因まで妙に詳しく知っていた。
ある日、職場のことで悩んでいた時、叔母から突然メッセージが届いた。
『その上司の人、あまりいい人じゃないわ。距離を取った方がいいわね』
私は血の気が引いた。職場の悩みなど、叔母に伝えるはずもない。
誰にも話していない悩みを、なぜ叔母は知っているのか。
次第に私は自宅でさえ落ち着けなくなった。
何かがおかしいと思い始め、家中を調べてみた。
すると、ベッド脇のコンセントに小さな盗聴器が仕掛けられているのを見つけてしまった。私は震えながら叔母に連絡する。
「あ、あの、部屋から盗聴器が見つかったんだけど、何か知らない?」
叔母は平然と答えた。
「あなたを心配してるだけよ。親戚だから、当然でしょ?」
言葉が出なかった。彼女の『心配』は明らかに常軌を逸している。
さらに部屋の中を探すと次から次へと盗聴器、小型カメラまで見つかった。叔母は私のすべてを監視していたのだ。
耐えられなくなり、両親に相談すると、彼らは苦笑いを浮かべた。
「あの人は昔からちょっとそういうところがあるのよ。前に若い女の子がストーカーされて殺された事件があったでしょう。あれからあなたがそうなるんじゃないかってちょっと異常なくらいに心配しはじめてひどくなったわね。悪気はないから許してあげて」
私は愕然とした。両親は知っていて放置していたのか。
私は絶望し、家を出て新しいマンションに引っ越した。もちろん両親に私の行き先は絶対に叔母に言わないように釘を差した。完全に叔母と距離を置いたつもりだった。
だが、引っ越したその夜、叔母から連絡が来た。
「新しいマンション、きれいね。7階だと眺めもいいでしょう?」
頭の中が真っ白になった。
どうして引っ越し先を知っているのか、問い詰めると叔母は笑った。
「探偵さんに調べてもらっただけよ。親戚なんだから、これくらい当たり前でしょう?」
私は携帯を切った。
警察にも相談したが、つきまとっているのが叔母だと告げるとあからさまに態度を変え、相手にされなかった。
叔母からの監視は続き、私の心は徐々に壊れていった。そのうち叔母は親戚中に私が心の病気だと言いふらした。
「最近のあの子、精神的に不安定みたいで心配なの。家族で面倒見てあげないと」
いつしか私は親戚中の問題児扱いになっていた。今日もスマホが震える。
叔母からだ。
『泣いているみたいだけど、大丈夫?』
私を今どこかで見ているのだろう。きっと近くにいるはずだ。画面の向こうからも叔母の視線を感じる。私は息を殺してキッチンに向かい包丁を手にした。
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