あんた、幽霊の仕事って聞いたことあるか? いや、本物の幽霊じゃない。あ、幽霊っちゃ幽霊なんだけど――説明が難しいな。
とりあえず、俺は死んだ。
でもそのまま成仏せず、心霊スポット専門の幽霊として働いてるっていったらわかるかな。仕事内容は簡単だ。本家の幽霊さんの代わりに肝試しに来る連中を怖がらせること。
「うらめしや〜」なんて古臭いことはやらない。今どきの客はホラー映画を見慣れてるからな。よりリアルな恐怖演出が求められるのさ。
例えば、突然背後に立って囁く。鏡越しに映る。視界に入らないところで、這いずり回るような音を立てる。オプションで「霊障」や「呪い」もある。ドアを開かなくしたり、スマホを誤作動させたり……まあ、ちょっとしたいたずらみたいなもんさ。
俺がここに来たのは、ちょうど一年くらい前だった。最初はぎこちなくて、なかなかうまくいかなかったよ。目の前に出るタイミングを間違えて「あれ? 今なんかいた?」で終わっちまったり、怖がらせる前に逃げられたりな。
そう。きちんと怖がらせないとダメなんだよ。ここにいる本家の幽霊さんたちは静かに休みたいわけ。だから肝試しなんかに来ている連中はちびるくらいビビらせて、二度と来ないようにしないといけない。
経験を積むうちにそのコツがわかってきた。
恐怖は「じわじわ」が一番効く。最初は気配だけ。次に音。最後にわずかに視界に入ってやる。それでほとんどのお客様は悲鳴をあげて逃げ出すんだ。
そんなある夜、俺はちょっとしたヘマをしちまった。
その晩の客は、大学生の男女4人組だった。最初はみんな笑ってた。俺は影だけが見えるようにすっと横切ってやる。まだ「幽霊」と思わせてはいけない。まずこの段階では気配だけ。
女性の一人が「……今、誰かいた?」と震えた声を出した。
よし、いい滑り出しだ。その後、ちょっとじらしてもう一度気配をちらつかせてやる。反応は上々。
あまり反応が予定通りで俺はちょっと調子に乗っちまった。
じわじわと気配を濃くしていき、それからようやく床を軋ませて音を立てる。その頃には連中、かなり奥の方まで入って来ちまってたんだ。慌てて天井裏から大きな物音を立て、仕上げに鏡にちらりと映る演出を入れる。
「うっわぁぁぁ!!!」
よし、決まった!
絶叫とともに、全員がバタバタと逃げ出した。いつもよりかなり時間をかけてしまったが、俺は満足だった。仕事を終えようとした――その時、異変が起こった。
逃げ遅れた女性の一人が、その場でつまずいて崩れ落ちたんだ。顔が真っ青で、ガタガタ震えてる。どうやら恐怖のあまり気を失いかけてるらしい。
ヤバい。ちょっとやりすぎた。気絶なんかされてここに残られると厄介だ。
俺は慌ててあらゆる霊障を解除しようとしたが、なぜかうまくいかない。周囲の空気が、がらりと変わっていた。この気配は……。
「さっさと追い払え……」
背筋が凍った。俺の後ろに、本家さんがいる。めちゃくちゃ虫の居所が悪そうだ。四人もご来店して大騒ぎしていたのだからさもありなん。
ゆっくり振り向くと、そこには真っ黒な影のようなもの。
「ここは……我らの領域……」
それは、俺よりもっと古く、もっと強い本家本元の幽霊様だ。
俺は必死で頭を下げ「すみません、時間をかけすぎました」と謝った。すると影はしばらく沈黙し、気配だけでこちらを睨む。
「……次は気をつけろ」
次の瞬間、影は奥へと消え、女性の震えも収まった。
「大丈夫? 立てる? 俺が怒られるし、もうここに来ないでくれる?」
「ひぃ」
女性は俺の顔をじっと見る。幽霊になってまだそこまで経っていない。本家さんみたいな異形には見えないはずだ。せいぜい半分透けた人間くらいのものだろう。
「あなた……幽霊……なの?」
女性はなぜか憐れむような表情をする。そういうの、ちょっと傷つくんだよなぁ。
「幽霊だけど、別に今の生活、悪かないよ」
また入口あたりで大きな声がしはじめる。彼女を探しに来るつもりのようだ。あまり大きな声を出さないでほしいのだが。
俺は大きくため息をついた。
「じゃ、気をつけて帰って。もう二度と来ないでよ。あ、そこ、割れた瓶あるから、踏まないで」
俺は深く反省したね。仕事のクオリティを高めたいとはいえ、あまり時間をかけるもんじゃない。
コメント