#149 幽霊のお仕事

ちいさな物語

あんた、幽霊の仕事って聞いたことあるか? いや、本物の幽霊じゃない。あ、幽霊っちゃ幽霊なんだけど――説明が難しいな。

とりあえず、俺は死んだ。

でもそのまま成仏せず、心霊スポット専門の幽霊として働いてるっていったらわかるかな。仕事内容は簡単だ。本家の幽霊さんの代わりに肝試しに来る連中を怖がらせること。

「うらめしや〜」なんて古臭いことはやらない。今どきの客はホラー映画を見慣れてるからな。よりリアルな恐怖演出が求められるのさ。

例えば、突然背後に立って囁く。鏡越しに映る。視界に入らないところで、這いずり回るような音を立てる。オプションで「霊障」や「呪い」もある。ドアを開かなくしたり、スマホを誤作動させたり……まあ、ちょっとしたいたずらみたいなもんさ。

俺がここに来たのは、ちょうど一年くらい前だった。最初はぎこちなくて、なかなかうまくいかなかったよ。目の前に出るタイミングを間違えて「あれ? 今なんかいた?」で終わっちまったり、怖がらせる前に逃げられたりな。

そう。きちんと怖がらせないとダメなんだよ。ここにいる本家の幽霊さんたちは静かに休みたいわけ。だから肝試しなんかに来ている連中はちびるくらいビビらせて、二度と来ないようにしないといけない。

経験を積むうちにそのコツがわかってきた。

恐怖は「じわじわ」が一番効く。最初は気配だけ。次に音。最後にわずかに視界に入ってやる。それでほとんどのお客様は悲鳴をあげて逃げ出すんだ。

そんなある夜、俺はちょっとしたヘマをしちまった。

その晩の客は、大学生の男女4人組だった。最初はみんな笑ってた。俺は影だけが見えるようにすっと横切ってやる。まだ「幽霊」と思わせてはいけない。まずこの段階では気配だけ。

女性の一人が「……今、誰かいた?」と震えた声を出した。

よし、いい滑り出しだ。その後、ちょっとじらしてもう一度気配をちらつかせてやる。反応は上々。

あまり反応が予定通りで俺はちょっと調子に乗っちまった。

じわじわと気配を濃くしていき、それからようやく床を軋ませて音を立てる。その頃には連中、かなり奥の方まで入って来ちまってたんだ。慌てて天井裏から大きな物音を立て、仕上げに鏡にちらりと映る演出を入れる。

「うっわぁぁぁ!!!」

よし、決まった!

絶叫とともに、全員がバタバタと逃げ出した。いつもよりかなり時間をかけてしまったが、俺は満足だった。仕事を終えようとした――その時、異変が起こった。

逃げ遅れた女性の一人が、その場でつまずいて崩れ落ちたんだ。顔が真っ青で、ガタガタ震えてる。どうやら恐怖のあまり気を失いかけてるらしい。

ヤバい。ちょっとやりすぎた。気絶なんかされてここに残られると厄介だ。

俺は慌ててあらゆる霊障を解除しようとしたが、なぜかうまくいかない。周囲の空気が、がらりと変わっていた。この気配は……。

「さっさと追い払え……」

背筋が凍った。俺の後ろに、本家さんがいる。めちゃくちゃ虫の居所が悪そうだ。四人もご来店して大騒ぎしていたのだからさもありなん。

ゆっくり振り向くと、そこには真っ黒な影のようなもの。

「ここは……我らの領域……」

それは、俺よりもっと古く、もっと強い本家本元の幽霊様だ。

俺は必死で頭を下げ「すみません、時間をかけすぎました」と謝った。すると影はしばらく沈黙し、気配だけでこちらを睨む。

「……次は気をつけろ」

次の瞬間、影は奥へと消え、女性の震えも収まった。

「大丈夫? 立てる? 俺が怒られるし、もうここに来ないでくれる?」

「ひぃ」

女性は俺の顔をじっと見る。幽霊になってまだそこまで経っていない。本家さんみたいな異形には見えないはずだ。せいぜい半分透けた人間くらいのものだろう。

「あなた……幽霊……なの?」

女性はなぜか憐れむような表情をする。そういうの、ちょっと傷つくんだよなぁ。

「幽霊だけど、別に今の生活、悪かないよ」

また入口あたりで大きな声がしはじめる。彼女を探しに来るつもりのようだ。あまり大きな声を出さないでほしいのだが。

俺は大きくため息をついた。

「じゃ、気をつけて帰って。もう二度と来ないでよ。あ、そこ、割れた瓶あるから、踏まないで」

俺は深く反省したね。仕事のクオリティを高めたいとはいえ、あまり時間をかけるもんじゃない。

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