「俺、前世の記憶があるんだ」
そう言ったのは、俺の親友、大輝だった。
「また適当なこと言ってんな」
俺は笑いながら返したが、大輝は真顔だった。こいつはいつもふざけてばかりなのに、そのときの表情は妙に冷静で、冗談とは思えなかった。
「本当だって。……お前のことも、知ってるよ」
「俺のこと? 前世の?」
「そう。お前も、俺と同じ場所にいたんだ」
どうせいつも通りふざけているんだろう。もし本気だったら、少し怖い。とりあえず冗談と解釈して、話にのってやってもいいだろう。
「で? 俺は前世で何をしてた?」
「——俺を殺した」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。冗談にしては趣味が悪い。
「何だよ。それ」
「お前は、前世で俺を殺したんだよ」
笑い話にしてやるつもりだったのに、大輝の顔は真剣でどう返していいのかわからなくなった。でも、大輝はむしろ懐かしむような表情を浮かべている。
「俺たち、昔は戦場にいたんだ。お前は敵兵で、俺は逃げていた。でも、お前は俺を見つけて——」
「もう、やめろって。全然笑えねぇよ」
俺は冗談半分に言ったが、背中に嫌な汗が流れていた。なんとなくだが大輝の話は本当のような気がしてきた。俺までどうかしてしまったのかもしれない。
「嘘じゃない。俺、お前の顔をずっと覚えてたんだよ。死ぬ直前にしっかりと見たんだ。お前の目、前世と同じだ」
その瞬間、理解した。初めて会ったときの妙な感覚——俺はこいつと前にも会ったことがある気がしていた。でも、それは錯覚だとずっと思っていた。
「俺、今世でお前と親友になれてよかったよ」
大輝はそう言って笑った。笑っていいのか、怒っていいのか、どう反応したらいいのかわからない。
それ以来、大輝は前世の話は一切しなかった。だが、大輝と話すたびに、表現しにくい妙な感情がわきあがる。
俺はもう、大輝ともとの関係には戻れない——。なぜなら俺も、前世で逃げる大輝の腕をつかんで刀で殺した感触がよみがえっていたからだ。そうだ。確かにしっかりと目が合った。今の大輝の目と同じだった。それ以外の具体的な戦場の記憶はない。しかし確かに別の世だったら、自分が殺した人間と、共に暮らすような日があったのかもしれないと思ったように思う。
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