#160 骨笛

ちいさな物語

トウジがそれを見つけたのは、村の外れの川辺だった。白く乾いた骨が、土に半ば埋もれるようにして転がっていた。鹿の骨だろうか。それとも……。

「変わった形だな」

拾い上げてよく見ると、中が空洞になっていて、まるで笛のようだった。試しに息を吹き込むと、かすれた音が漏れた。

「これ、笛が作れるかもしれねぇ」

トウジは尖った石で根気強く穴を開け、簡単な笛を作った。村へ戻る道すがら、何度か試しに吹いてみたが、音はただの風のように頼りなかった。

ところが——。

夜になり、誰もいない川辺で笛を吹くと、それは急に美しい音色を奏でた。トウジは昼間と同じように息を吹き込んでいるだけだ。それなのに知らぬ旋律が流れ出す。それは悲しくも甘やかな調べだった。

「なんだ、この笛……?」

不思議に思いながらも、トウジは曲に魅せられ夢中で吹き続けた。すると、川辺の木々がざわめき、月光がまるで笛の音に導かれるように揺らいだ。

翌日、村の男たちの狩りは豊猟だった。

たくさんの獲物で沸く村の広場で、トウジは山の神様へのお礼の気持ちであの笛を吹いた。

すると村人たちは驚いたようにトウジを見た。年寄りたちは顔を曇らせ、誰かがつぶやいた。

「その旋律……まさか……」

トウジは知らないはずの曲。しかし、村の者たちは覚えていた。

「それは、昔この村で行方知れずになった猟師が吹いていた曲だ」

そう言ったのは、村の古老だった。

「猟師はある日、山に入ったきり戻らなかった。そして……何年も後に、彼の骨だけが見つかった」

トウジの手の中の笛を、村人たちは恐る恐る見つめた。もしかして、この骨は……。

「あいつが獲ってくれたんだなぁ」

老いた猟師の一人がぽつりとつぶやくと、村人たちはたくさんの獲物を前にしんみりと黙りこんだ。

トウジは猟師が行方不明になった山の奥で響いていたかもしれない最後の旋律を思う——。

それから数年後、トウジも猟師になった。

あの笛はもう曲を奏でることはなかったが、山に入るときは必ず首からさげることにしている。

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