#188 呪われた黄金都市

ちいさな物語

父親も母親も仕事で忙しく、さみしさにかられた少年はふと呟いた。

「ねえ、神様、空からお金が降ってくれば、僕はお父さんとお母さんと、毎日一緒にいられるのに」

翌朝、本当にそれが現実となった。はじめは誰もが夢だと思った。だが窓を開けると黄金の硬貨がキラキラと、まるで神様がばら撒くかのように降り注いでいる。

街中に歓喜の声があふれ、人々は競って空から降る金貨を拾い集め始めた。誰もが富を手にし、一夜にして富裕層が増えた。

だが人間の欲望は際限なく広がり、すぐに奇妙なことが起こり始めた。

金貨が降り続けるため、金銭そのものの価値が大暴落したのだ。昨日まで貴重だったはずのものが、今日はただの金属のかけらに過ぎない。街には無数の金貨が転がり、人々は拾うことすらやめてしまった。

やがて商店は機能を停止し始めた。誰もが「タダの金」を手に入れられるようになり、商品の値段は天文学的な数字へと跳ね上がった。食べ物や水は急速に希少となり、物々交換が復活した。

「金なんて、もう見るのも嫌だ」

街に絶望が漂う頃、人々は気づき始めた。いくら願っても、今度はこの黄金の雨が止まないということに。

街は徐々に荒廃し、暴動や略奪が横行しはじめた。人々は食べ物を求めて争い、かつて友人や隣人だった人間同士が憎しみ合った。もはや誰も金など見向きもしないどころか、憎しみすら抱いていた。

ある日、一人の男が空を仰ぎながら叫んだ。

「誰だ、こんな願いをしたのは!」

しかし誰もが、自分自身が心の中で一度くらいは願ったことがあることを思い出し、沈黙した。

少年だけが静かに泣いていた。

「あの時、僕が願ったせいだ」

しかし、少年以外の誰もが、心の中で同じことを願った経験を持っていたのだ。
だからこの呪われた雨は、人間の願望そのものが引き起こしたのだろう。

やがて街は金貨に埋もれ、静かになった。
誰もいなくなった街に、黄金の雨だけが今日も静かに降り続ける。

それが今はどこにあるのかわからない、呪われた黄金の都市の本当の物語だって、そう聞いたよ。

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