図書館の返却棚に並べられていた古い推理小説。なんとなく手に取ったその本のページをめくった瞬間、何かの紙片が落ちた。拾ってみると、文字が薄くなったレシートだ。
日付は1年前。近所のコンビニの名前と、以下の品名が印字されていた。
・紙コップ
・乾電池(単三×4)
・ロウソク
・アメリカンドッグ
「……なんか、変な組み合わせだな」
違和感はあったが、買い物なんて事情を知らない他人が見たらどれもそんなものだろう。その場に放るのもはばかられて、とりあえずポケットに押し込んだ。
だが、そこからだった。
夜、自室で読書をしていると、突然電気が消えた。スマホの光で照らしてみると、机の上にあのレシートがあった。
存在すら忘れていた。
そういえば、ポケットにねじ込んだ気がするなくらいの記憶しかない。ぐしゃぐしゃになっているはずなのに、本に挟まれていたときのピンとした状態のまま机に置いてある。
さらにおかしなことが続いた。
冷蔵庫を開けると、買った覚えのないアメリカンドッグがラップに包まれて鎮座していた。
奇妙な状況に気味が悪くなり、そのコンビニに行ってみることにした。
しかしレシートに印字された店舗は、すでに閉店してしまったようだ。
だがその跡地のコインランドリーを清掃していた老人が、奇妙な話をしてくれた。
「ああ、あのコンビニね。店員として働いてたよ。一年前に客が急に倒れてそのまま亡くなったんだ。それで、田舎だから、ほら、なんとなく客に敬遠されちゃって、店、すぐ潰れちゃったよ」
「亡くなった方の買ったもの? いや、それはさすがに覚えてないよ。え? 紙コップと電池とロウソクと……アメリカンドッグじゃなかったかって? あー、アメリカンドッグは確かに買ってたかな。売り切れてたから、ちょっと待ってもらって揚げた気がする。確か。あっ、そうか。ロウソクが溶けるかもって袋も別にしたんだったな」
私の持っていたレシートと同じとは言い切れないが、なんとなく嫌な感じがした。
「その客さ、倒れたときに変なことを言ってたよ。“このアメリカンドッグが、全てを終わらせる”って。頭を打ったのかもしれないな」
私は再び、家に戻った。
ラップに包まれたアメリカンドッグは、まだ冷蔵庫にある。
恐る恐る包みを開き、さらに中をあらためる――すると、衣の中から、小さなプレートの付いた鍵が出てきた。
その瞬間、部屋の電気が一斉につき、レシートが燃えるように消えた。
調べてみると鍵は、駅のコインロッカーの鍵のようだった。プレートにはロッカーのナンバーも書いてある。
私は時系列に状況を整理した。
コンビニで怪死した男、「アメリカンドッグが、全てを終わらせる」という奇妙な言葉、一年後になぜか推理小説に挟まれていたレシートを私が見つける、家で起こる怪現象、冷蔵庫に突然現れたアメリカンドッグ、中から出てきたコインロッカーの鍵――。
私はため息を吐いて、手のひらの上の鍵を見つめた。遠く踏切の音が聞こえる。やるべきことは明確だった。
私は窓を開け、大きく振りかぶってコインロッカーの鍵を用水路に投げ捨てた。
様子が変だから関わらない。これに尽きる。
それから私は窓を閉め、テレビをつけ、何事もなかったかのようにバラエティ番組の視聴を開始した。
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