最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。
高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。
人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。
目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。
夢にしては現実的すぎた。石の冷たさ、床の埃、木のきしむ音さえ感じられた。
その翌晩も、俺は同じ夢を見た。
同じ城、同じ構造、だが廊下の突き当たりの扉が開いていた。
中は古びた図書室で、壁一面に革張りの本が並んでいた。一冊を手に取ると、表紙に自分の名前が刻まれていた。
目が覚めたとき、ベッドの脇に、その本が置かれていた。夢から持ち帰ってきたのだろうか。
翌朝、気味が悪くなって、図書館で城のことを調べた。
だが、歴史にも地図にも、それらしき城は存在しなかった。
それでも夢は続いた。毎晩、少しずつ探索できる範囲が広がっていく。
地下牢、礼拝堂、温室。どの部屋も不気味に整然としていて、誰かが最近までそこにいたような気配がある。
そして昨夜、玉座の間にたどり着いた。だが、玉座に座っていたのは、俺だった。夢の中の自分が、現実の俺を見つめてこう言った。
「目を覚まさなければ、こちらが現実になる」
その声と同時に、目覚まし時計が鳴り響き、俺は跳ね起きた。
だが部屋は見慣れた自室ではなかった。
重たい石壁、冷たい空気、そして窓の外には、月に照らされる城の中庭が広がっていた。
俺は夢から出られなくなったのか、それとも、夢こそが現実だったのか。
今も俺は、この城の中を歩き続けている。扉の一つを開ければ、もしかすると、誰かが目を覚ましてくれるのかもしれない。
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