#224 水曜日だけの魔法使い

ちいさな物語

僕の能力は週に一度、水曜日にだけ使える。

名前は『ウィークデイ・ウィザード』。

中二病全開の名前だが、実際のところ、あまり役に立つ能力ではない。

月曜や火曜に襲われても何もできないし、木曜や金曜に困っている人に出会っても、助けることすらできない。土日は能力の存在さえ忘れている。

そんな僕の名前は吉田ハル。

普通の町の高校二年生だが、この町は他とはひとつだけ違うことがある。

それは、『異能者』と呼ばれる能力者がいることだ。

彼らはさまざまな力を持ち、中には火を操ったり、物を浮かせたりする派手な能力者もいる。

しかし、彼らは皆、それなりの代償を払って力を行使していた。代償の種類は当人しかわからない。寿命だったり、容姿だったり、視力だったり、聴力だったり、中には腕や足なんて「廃課金」勢もいた。

その点、僕の能力は代償がほぼない代わりに、水曜日限定という微妙すぎる制限がある。

ある日の水曜日、学校の帰り道だった。

コンビニに立ち寄り、アイスを選んでいると、突然地響きがした。

店内が騒がしくなり、外を見ると巨大な岩のような物体が道路を塞いでいた。

「うわ、なんだよあれ!」

誰かが叫ぶと同時に、その巨大な岩が人の形に変化し、動き始めた。

明らかに異能者の仕業だ。

「これは、嫌な予感……」

僕はつぶやいたが、今日は幸運にも水曜日だった。能力が使える日だ。店を飛び出し、僕は手を掲げた。

「能力発動、『ウィークデイ・ウィザード』!」

声に出すと少し恥ずかしいが、効果は抜群だった。空気が震え、僕の体はふわりと浮かび上がった。

水曜日の間だけ、僕はほぼ万能な力を得られる。これで代償が、ほぼなしなんだからお得感はかなりある。空を飛び、物を動かし、他にもいろいろとできるのだが、まだまだ自分の能力は未知の領域が多い。

岩の巨人に近づき、僕は静かに言った。

「君、道路塞いで迷惑だよ」

巨人は振り返り、低い声で答えた。

「私と戦え」

面倒な相手だ。

僕はため息をつきながら、手を伸ばす。見えない巨大な手が、巨人を押し返した。

だがその瞬間、背後から鋭い風が吹いた。振り返ると、空中に浮かぶ少女がいた。

「今度は何? 君、誰だよ」

「私はアリサ。君を倒しにきた」

彼女の能力は風を操ることらしい。素早く動き回り、攻撃を仕掛けてくる。

「ちょっと待ってよ、僕、戦う気はないんだけど。この巨人が通行の邪魔だからどかそうと思って……」

「そんなことは関係ないわ。私は強い相手を倒したいだけ」

彼女の風は鋭く、僕の制服が裂けるほどだった。本気でやるしかない。

「仕方ないな」

僕は意識を集中し、地面から巨大な手を出現させた。さっきの巨人を見て思いついたのだが、案外うまくいく。風を操る少女をつかみ取り、動きを封じた。

「これでいいかな?」

少女は驚いていたが、すぐににっこりと笑った。

「あなた、面白い能力ね。でも、水曜日だけなんでしょう?」

僕は肩をすくめた。

「知ってて、なんで今日来るの?」

「さっき言ったでしょ。倒したいの」

「水曜日に?」

アリサはこくりと頷いた。

彼女を解放し、周囲を見回すと、先ほどの岩の巨人はもういなくなっていた。あれは水曜日以外にまた来そうな気がする。

僕らは近くのベンチに座り、話を始めた。

「君も異能者として生きるの、大変でしょ」

少女は頷いた。

「大変だけど、強い相手を見るとわくわくするわ」

アリサは目をキラキラさせている。好戦的な人種だ。

「僕なんて水曜日以外は無能力者と変わらない。週一でヒーローやってる気分だよ」

僕の言葉に、彼女は笑った。

「それも悪くないわね。毎週楽しみにできるじゃない」

こっちはアリサほど好戦的ではないので、曖昧に笑った。

アリサと別れて、家に帰ると母が夕食を作っていた。何もなかったかのような普通の日常だ。

夜、自室でベッドに横たわり、天井を眺めた。

今日は水曜日、能力が使える日だったが、明日にはまた普通の高校生に戻る。今日の岩の巨人が襲ってくるかもしれないので、走りやすい服で出かけなければならない。

僕はふと考えた。

能力が水曜日に限定されていることに意味はあるのだろうか?

答えは出なかったが、水曜日だけでも、人助けができるのは悪くない。アリサという面白い友達もできた。

「まあ、水曜日だけの魔法使いも悪くないか」

僕の人生は少し奇妙だが、退屈することだけは決してない。

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