#253 深夜の回転寿司屋

ちいさな物語

「駅裏にある深夜の回転寿司屋は何か変らしい」

そう噂を聞きつけた僕は、金曜の夜、興味本位で閉店後の回転寿司屋を見に行ってみた。

なぜか明かりがついていて、自動ドアが開いたままになっている。そっと中をのぞくと、普通に営業しているかのように明るかった。

しかし回転レーンには寿司が一皿も流れていない。閉店後なのだから当たり前なのだが、異常はそれだけではなかった。

なぜか軍手やマラカス、ハリネズミのぬいぐるみが皿の上にちょこんと乗って、くるくる回っている。

「いらっしゃいませ、会議の参加ですか?」

いきなり話しかけられてびくっとしてしまう。普通にその店の店員の制服を着ている。しかし、ネクタイを頭に巻き、名札には「臨時議長」と書かれていた。

返事もできず固まっていると、「こちらへどうぞ」と促され、回転レーン横の「特設会議席」と、張り紙がされている席へ案内された。

そこにはすでに、4人(?)のメンバーが座っている。

一人目はハリネズミの着ぐるみ(中身不明)。二人目は頭に寿司の被り物を被ったサラリーマン。三人目はパンダのカチューシャにパンダ柄のスウェットを来た子供(たぶん男の子?)。四人目は、見た目は普通のおばあちゃんだが、マラカスを振っている。議長(店員)が議事録を開くと、誰もが神妙な顔をした。

「本日の議題は“寿司以外”です」

メンバーが頷く。パンダが突然手を挙げた。

「パンダです。パンダ寿司は、ありでしょうか」

「それは“寿司”なので、議題から外れます」

「ですよね!」

パンダは妙にうれしそうだ。寿司の被り物をしたサラリーマンが発言する。

「寿司以外といえば、軍手寿司というのはどうでしょう」

「軍手寿司……それは寿司ですか?」

「回転レーンを軍手が回っているので、軍手寿司です」

「なるほど……でも、食べられませんね」

「軍手に軍手を巻けば、軍手軍手寿司です」

「軍手が増えましたが、やはり食べられません」

話が進まない。いやいや、これは何だ?

おばあちゃんが「昔は軍手をおかずにご飯を食べた」と言い出し、皆が「さすが大先輩」と感心した。

次にハリネズミが小声で呟いた。

「おすすめは、ぬいぐるみ丼です」

「それは“寿司”……?」

「ご飯の上にぬいぐるみが乗っているので、丼です」

「……なるほど」

名前のまま過ぎる。

据えつけられた注文用タブレットにぬいぐるみ丼の注文ボタンが現れ、通知音が鳴る。

パンダが迷わずそれを押した。

しばらくしてレーンの向こうからぬいぐるみ丼が流れてきたが、誰も取らずにレーンの向こうへ消えていった。

臨時議長が仕切り直す。

「みなさん、寿司以外の寿司屋メニュー、なにがあるでしょう」

寿司サラリーマンがふと立ち上がり、スーツの内ポケットから紙飛行機を出す。

「紙飛行機の握り、どうぞ」

結局、寿司じゃないか。

「……うまそう!」

なぜか全員、紙飛行機をもぐもぐ食べはじめる。おばあちゃんは紙飛行機をマラカス代わりに振っている。

「次の議題、回転レーンで回すとしたら寿司以外で何がよいか」

「私はマラカスです」

「僕は回転ずしのレーンに乗るのが夢でした!」

支離滅裂とはこのことだ。

パンダの夢が叶い、レーンに乗せられて回りはじめた。拍手が起きる。パンダは「うれしいです」と叫びながら遠ざかっていった。

こんなバイトテロみたいなノリ、大丈夫なのか。

「続いて、次期会長選挙の話です」

なぜか急に選挙モードになる。立候補者は寿司サラリーマンとハリネズミ。候補演説が始まる。

「私は寿司以外の寿司屋改革を断行します! 寿司がない日を作ります!」

「私は回転レーンにカレーのルーを流します! 流しそうめんのように」

大激論が続き、パンダが再びレーンから戻ってくる。一周してきたのか。

「投票の結果……」

議長が開票。投票用紙は全部、裏が白いチラシを切ったものだ。結局、会長はマラカスを振っていたおばあちゃんになった。

「わたしが会長? じゃあ今夜はマラカス無料配布します」

あれ? そもそもあの人、立候補すらしていないのでは?

レジ前に「本日マラカス配布中」の張り紙が貼られ、深夜の会議はマラカスのリズムで締めくくられた。

帰り道、僕は軍手とぬいぐるみを握りしめていた。夢でも見たような気持ちだ。

翌日、回転寿司に行くとレーンには普通に寿司が流れていた。やはりあれは夢だったのだろう。どちらかというと、悪夢寄りの。

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