朝、目を覚ましてカーテンを開けると、いつものように巨大なイグアナが庭にいた。
俺は制服に着替え、トーストをくわえながら外へ出る。イグアナはすでに俺を待っていた。
「おはよう、グスタボ」
そう、俺はこいつをグスタボと呼んでいる。名前の由来はよく覚えていないが、子どもの頃からずっと一緒だった。
グスタボの背中に飛び乗ると、ざらざらした鱗の感触が心地いい。手綱なんてないが、俺が乗ると彼は勝手に歩き出す。
ご近所の人たちは特に驚く様子もなく、「おはよう」と挨拶を交わす。俺も「おはようございます」と返す。
グスタボはゆっくりと住宅街を抜け、商店街を進み、坂道を上って学校へ向かう。道中、同級生たちが自転車や徒歩で通学しているが、誰も俺の乗り物について何も言わない。
俺はいつもどおりグスタボを駐輪場にとめて、大根の葉っぱを与えた。
――それが、当たり前だからだ。
ある日、ふと気づいた。
「……おかしくないか?」
俺はグスタボの背中の上で、ぼんやりと考えた。
なぜ俺はイグアナに乗っている? 誰も気にしていないようだが、自分以外でイグアナに乗っている人がいない。
そもそも、こんな巨大なイグアナが普通に街を歩いていて、誰も気にしないのはおかしいのでは?
家に帰って、母に聞いてみた。
「ねえ、俺って昔からグスタボに乗って通学してたっけ?」
母は不思議そうな顔をした。
「何言ってるの? あんた、毎日歩いて学校に行ってるじゃない」
「……え?」
俺は息を呑んだ。
「だって、グスタボに乗ってるじゃん」
母は困ったように笑う。
「あんた、それ、夢の話?」
俺はそれ以上何も言えなかった。
翌朝、目を覚ましてカーテンを開けると――グスタボは、ちゃんといた。
昨日のことは何だったんだろう? 母は「歩いている」と言った。でも、俺は確かにグスタボに乗っている。
「……まあ、いいか」
俺はいつも通りグスタボの背中に飛び乗った。
道を進むうちに、昨日の違和感も薄れていった。
だって、ほら――
誰も俺を不審な目で見ないし、グスタボも相変わらず頼れる相棒なのだから。
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