むかしむかし、ある深い山奥の村に、力のない小さな木こりがおったんじゃ。
名前を吾作というてな、村で一番ちっこい身体じゃったが、働き者で心根の優しい男じゃった。
ある日、吾作が山で道に迷ってしまったんじゃ。日も暮れかけ、途方に暮れておったところ、草むらから弱々しい声が聞こえてきたんじゃ。
「頼む、助けておくれ」
驚いて振り返ると、そこには真っ白な狼が倒れておった。脚に罠が食い込んでおり、苦しそうな顔をして吾作を見ていたんじゃ。
狼は震えながら言った。
「人間よ、わしを助けてはくれぬか。必ず恩を返すゆえ」
吾作は怖かったが、その目があまりに悲しげでな、心が痛んで罠を外してやったんじゃ。
すると狼は立ち上がり、「ありがとう、小さな木こりよ」と言って姿を消したんじゃ。
それからというもの、吾作が山で迷うことは二度となかった。不思議なことに、吾作が山で困ると必ず白い狼が現れて、道を教えてくれるようになったんじゃ。
ある年の冬、村に大雪が降り積もり、食べ物が尽きかけてしまったんじゃ。村人たちは困り果て、吾作に助けを求めた。
吾作は白い狼を頼って山へ入った。すると狼がすぐに現れて、こう言った。
「山の奥に食べ物が豊富にある谷がある。わしについてこい」
吾作は狼に導かれ、見たこともないほど豊かな谷に辿り着いた。そこには山菜や果物、獲物がたくさんおったそうじゃ。
吾作はその食べ物を村へ運び、村人は大喜び。みんなが吾作を称え、村は救われたんじゃ。
だが、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
ある日、村が山賊に襲われたんじゃ。
村人は恐怖で震えておったが、吾作は狼に助けを求めた。
白い狼は力強く言った。
「お前はわしを救った。今度はわしがお前たちを救う番じゃ」
狼は仲間の狼たちを率いて村に現れ、山賊たちを追い払ったんじゃ。
村は再び平和を取り戻し、吾作と白い狼の友情はますます強くなった。
その後、村では小さな祠を作り、白い狼を神様として祀るようになった。
吾作は年老いても狼との友情を忘れず、いつまでも山を守り続けたそうじゃ。
その村では今でも、山に入るときはこう言うのが習わしじゃ。
「白き狼様、どうか私たちを守ってくださいませ」
そして、そっと頭を下げてから山に入るんじゃよ。
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