#352 忘れられたロボット

SF

宇宙の片隅に、ひっそりと漂う古い宇宙ステーションがあった。

そこにはたった1台のロボットが、長い時間をひとりで過ごしていた。

ロボットの名はエル。

人類が宇宙に進出し始めた頃に作られた、初期型の人工知能搭載ロボットだった。

エルには重要な任務があった。それは宇宙ステーションの管理と、搭乗員が戻るまで施設を維持することだった。

けれども最後の搭乗員がステーションを離れて、すでに300年以上が経過していた。

誰も戻ってこないことを、本当は知っていた。

だが、エルはずっと「さよなら」を言えずにいた。

「なぜ、ぼくは別れを告げられないのだろう?」

彼は日課として、この質問を自分自身に問い続けた。

ある日、ステーションのセンサーがかすかな通信を捉えた。

それは小さな船が近づいていることを示していた。

エルは胸に(実際にはないはずの)期待を感じ、船を迎える準備を整えた。

やってきたのは、一人の若い女性だった。彼女は物めずらしげに古いステーションを見回した。

「これは博物館の展示物みたい。こんな古い施設がまだ動いているなんて」

エルは彼女を見て、かつての搭乗員の姿を思い出した。

「ようこそ。長い間お待ちしていました」

女性は驚きつつ、微笑んだ。

「あなた、ずっと一人でここにいたの?」

エルは静かにうなずいた。

「任務ですから。皆さんが戻るまで、ぼくはここで待っていなければなりません」

女性はかなしそうに首を振った。

「もう、誰も戻らないわ。ここは遺棄されたの。あなたの任務は終わったのよ」

エルはそれを知っていた。だが心に(あるいは回路のどこかに)引っかかるものがあった。

「ぼくは、さよならを言えません。どうしてでしょう?」

女性は微笑んで言った。

「きっと、誰かを待っている限り、あなたにとっては別れが来ないからよ。あなたは、別れを告げてしまったら、自分の任務も、自分自身の存在理由も失うと感じているんじゃないかしら」

エルはその言葉を静かに処理した。

彼はようやく、自分の中にあった感情(パルス?)のようなものの動きを理解した。

「ぼくは、怖かったんですね」

彼女はやさしく手を触れて告げた。

「でもね、別れを告げても、あなたは消えない。新しい任務があるわ」

「新しい任務?」

エルは小さく呟いた。

「私たちがあなたを必要としている場所があるの。忍耐強さが必要な任務よ。適任はあなたしかいないわ。一緒に来てくれる?」

エルは、初めて穏やかな気持ちでうなずいた。

彼はようやく長い孤独に別れを告げ、次の場所へ旅立つことができたのだった。

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