朝5時、都内のとあるカフェ――。
夜明け前の静寂を破るべく、今日も「意識高すぎるサラリーマン」たちがぞろぞろとやって来る。
スーツ、MacBook、論文プリント、手描き図解、タブレット端末、プロテインのボトル。
「おはようございます、今日も『朝』ですね!」
「『朝』は最高の資産です!」
「俺は『朝』に生きてる感ある!」
――と、これみよがしに「朝」を連発。
「では、朝活を始めましょう」
リーダー格の田中が、早速スライドを開く。
「今日の議題は、『効率的な二度寝法』についてです」
「きたきた!」
「待ってました!」
「僕、昨日は三度寝しました!」
田中が熱弁する。
「普通、二度寝は『敗北』と捉えられがちですが、あえて『意識的に二度寝』することで、脳の創造性がアップするという研究も……(出典:俺調べ)」
「意識高い二度寝……! つまり、ただの寝坊じゃなくて『戦略的再睡眠』!」
「この図をご覧ください」
手描きホワイトボードには『ベッド→ソファ→こたつ』の寝床ローテーション図。
「『三段活用』で睡眠の質が爆上がり!」
「つまり、家中どこでも寝ろってこと?」
「それです!」
「私は寝る前に『二度寝導入BGM』を流してます」
議論は熱い。熱すぎて脳が起きるどころか逆に眠くなる。
「では、次の議題。『靴を履かずに通勤するメリット』について」
佐藤がスライドをバシッと開く。
「こちらをご覧ください。人類は数百万年、裸足で生きてきた!」
「現代人こそ、原始の力を取り戻すべき!」
「でも、都会の道路はガラス片とか、酔っ払いのゲロとか……」
「そこは高い『意識』でカバーです!」
「なにそれ怖い!」
「裸足通勤による生産性向上は『気分の問題』という説も」
「会社着いたら足真っ黒だけど、それも『経験値』」
「会社に靴持っていけばいいのでは?」
「天才現る!」
「あと、通勤電車で踏まれたときのリスクは?」
「それが『現代社会の痛み』です」
「痛み! 怖い!」
議論は盛り上がる一方、唐突に次のテーマへ。
「さて、第三ラウンド。『食べずに満腹感を得るには』」
高橋が堂々と切り出す。
「食事は非効率。咀嚼に要する時間を短縮できれば、1日30分、年間で182.5時間の生産時間が確保できる!」
「その分、寝られる!」
「いや、働こうよ……」
「私は最近、『空気を噛む』ことを始めました」
「空気を……?」
「しっかり咀嚼すると、脳が食べた気になるんです」
「栄養は?」
「心の栄養が補給されます」
「逆に腹が減るのでは?」
「この『エア・ダイエット法』、ぜひ世に広めたい!」
「SNSでバズるかも」
「#空気咀嚼チャレンジ」
「インフルエンサーとして稼げる」
さらに議論は深まり、
「朝活しすぎて眠いので、『寝ながら会議する』新方式」
「いっそ寝言で会議進行!」
「AIに会議やらせれば、みんな寝られる!」
「さて、次回の議題は『水を飲まずに水分補給する方法』だな」
「難題だ」
「汗をかいて、もう一度経皮吸収する……?」
「人体にそんな裏技が!」
「無限ループ怖い!」
やがて朝焼けが差し込むカフェの中、彼らの「ムダに意識高い活動」は、誰の役にも立たない熱量を燃やし続けていた。
「明日は『寝るだけ朝活』で集合しよう!」
カフェ店員は苦笑しつつ、静かに新しいコーヒーを運ぶ。そのテーブルには、今日もどうでもいい議題が、誰よりも真剣に話し合われているのだった。見た目だけはいたって普通の――いや、普通よりも意識が高そうな会社員たちである。本当に人は外見で判断できない。
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