これから話すのは、俺が小学校5年生のときに体験した、ちょっと不思議で気味の悪い話だ。
別に作り話なんかじゃなくて、本当にあったこと――なんだけど、信じてもらえないだろうな。まあ、とりあえず聞いてよ。
その日は、クラスのみんなが楽しみにしていた遠足だった。
行き先は、地元の人にもあまり知られていない、小高い山の奥にある古い神社だった。
今考えると、なんでそんな場所を先生が選んだのか、ちょっと理解できないんだけどね。
朝から天気も良くて、俺たちはみんなでバスに乗り込み、歌なんかを歌いながら山へ向かった。
到着したのは、ひなびた駐車場で、そこから山道を30分くらい歩かなきゃならなかった。最初はみんなで騒ぎながら登ってたんだけど、だんだん口数も減ってきてさ。
道が狭くて急だし、木々が鬱蒼としてて、なんとなく嫌な感じがしたんだよな。
「なんか不気味だね」なんて、女子たちがヒソヒソ言ってるのが聞こえてきたりして。
そんなこんなでようやく神社に着いたんだ。
そこは想像以上にボロボロで、鳥居は傾いてて、境内には落ち葉がいっぱい積もってた。
子供ながらに何か嫌な感じがするなって思ったんだ。いや、別に霊感とかそういう話じゃないよ。
本殿の扉には板が打ち付けられてて、入ることもできないようになっていた。
それでも先生は「みんな自由時間だ。けど、境内からは離れないように」と言って、自分は木陰で休んでいた。
遠足っていっても、たぶん足腰を鍛えるとか、自然に触れ合うとかそういう目的だったんだろうな。こんな場所で自由時間なんて言われても正直困ったよ。
でも俺は友達のタカシやマサルと一緒に周辺を探検してみようぜ、なんて話をしていた。
そんな時、クラスメイトのケンタが俺らに近づいてきた。ケンタはいつもちょっと変わってて、クラスでも浮いてたんだ。
俺たちを見てニヤニヤしながら「こっちに面白そうなとこあるぞ」と手招きするんだよ。
正直、ケンタとはあまり仲良くなかったんだけど、どうせ何もなくて暇だからってことで、行ってみることにした。
境内の奥には小さな鳥居があって、その先には細い獣道が続いていたんだ。
「この先、行っちゃだめなんじゃないの?」
マサルが不安そうに言ったけど、ケンタは構わずどんどん進んでいく。俺とタカシも仕方なく後をついていったんだ。
ここへ来たときの嫌な感じがどんどん濃くなっていくような気がして、俺たちは押し黙ったまま進んだ。
しばらく行くと、目の前が急に開けて、妙な空間が現れた。
そこは丸い広場みたいなところで、地面には真っ白な砂が敷き詰められていた。砂は砂浜みたいにさらさらしているように見える。暗い森の中にあるにはあまりにも違和感のある場所だった。
真ん中には大きな石碑が立っていて、そこに何か文字が刻まれていたんだけど、難しくて読めなかった。
ケンタはその石碑に近づいてじっと見ていたけど、急に俺たちの方を振り向いて不気味な笑いを浮かべて言ったんだ。
「俺、この場所、知ってるよ。ここに入るとね、帰れなくなるんだ」
何を言っているんだ。俺たちは適当に苦笑いをして、目で「戻ろう」と合図を送り合った。でもケンタは妙に真剣で「本当だよ。嘘だと思ってるだろ? 見せてやるから」とまくし立てる。なんだか薄気味悪かった。
その時だった。
先生の声が遠くから聞こえて、タカシとマサルは「先生が呼んでる!」「こんなとこまで来たってバレたら怒られるぜ」と、あわて始めた。
「ケンタ、戻るぞ」って声をかけたけど、ケンタは石碑の前に立ち尽くしたまま、返事をしない。
そのうち戻ってくるだろうと、俺たちは先に来た道を引き返したんだ。境内に着いたら、先生がもう人数を確認しているところだった。
「お前ら遅いぞ。どこまで行ってた?」
俺たちは顔を見合わせて「へへへっ」と笑って誤魔化した。
全員整列して、先生が点呼をしようとしたとき、誰かが「ケンタがまだいません!」って叫んだ。まだ戻ってなかったのかと、俺たちはびっくりして目を見合わせる。
先生は俺たちに動かないように指示して、辺りを探し始めた。でも大事になりそうだったんで、俺たちはさっきケンタと一緒にいたことを正直に話したんだ。
先生があわてて例の場所に走ったが、誰もいなかった。俺たちが案内したから、場所に間違いはない。
真っ白な砂には足跡が一つも残ってなくて、ケンタが立っていたはずの場所にも何も残っていなかった。
警察が呼ばれて、必死に捜索が行われたけど、結局ケンタは見つからなかった。捜索は何日も続いたけれど、結局手がかりすら見つからなかったらしい。
それからしばらくして、俺たちの学校ではあの遠足での一日がタブーのように語られなくなった。誰が口止めしたでもない。自然にみんな口にしなくなったんだ。
俺たちが無理矢理にでもケンタを連れ戻していたらと思うと罪悪感は拭えない。誰も俺たちが悪いとは言わなかったが、その話題が語られなくなり、ほっとしたのは確かだった。
あの石碑には何が書かれていたのか。あの場所は何だったのか、そしてケンタはどこに行ったのか。
大人になった今でも時々思い出すんだ。あの不気味な白い砂の空間をさ。
だから、今でも山に入ると、なんとなくあの場所に導かれそうな気がして、背筋がぞっとする。山の中って本当に怖い場所なんだよ。
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