#396 あのとき出会った子供

ちいさな物語

あれはもう何年も前の話になるな。

俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、仲間と共に異世界の荒野を旅していたときのことだ。

ある街道沿いの村に立ち寄ったとき、ひょっこり顔を出した子供がいた。


年の頃は十歳くらいだろうか。痩せぎすで、けれど目が妙に澄んでいた。
俺たちを見つけるなり駆け寄ってきて、「僕も一緒に行く!」なんて言い出したんだ。

最初はみんな笑って相手にしなかった。だがその子はしつこく食い下がってきて、ついには俺たちの後をついてきた。仕方なく「途中までなら」と同行を許した。

おかしな子供だったよ。普通ならあの年頃の子は怖がるだろうに、森の奥へ入るのも、洞窟に近づくのも平然としていた。しかも驚いたことに、俺たちが迷いかけた道で「こっちだよ」と迷いなく先導したんだ。

最初は偶然かと思った。だが次の日も、その次の日も、子供が示す道は必ず安全で、しかも目的地に近かった。

一度など、俺たちがうっかり崩れかけの橋を渡ろうとしたとき、その子が「やめろ!」と叫んで止めてくれた。その直後、橋は轟音を立てて崩れ落ちたんだ。

「どうして分かった?」と聞いたら、子供はにやりと笑っただけだった。

それから数日の旅の間、俺たちはその子供に助けられ続けた。魔物の気配を察して道を変えたり、突然の豪雨の前に洞窟を見つけたり。仲間の一人は「こいつ、未来でも見えてるんじゃないか?」と本気で言っていたくらいだ。

不思議だったのは、子供が自分のことをほとんど話さなかったことだ。名前を聞いても答えない。住んでいる村を尋ねても、ただ首を振るばかりだった。それなのに、俺たちのことはよく知っているような素振りを見せる。

「剣の腕はもう少し腰を落としたほうがいい」

「魔法は詠唱が長いと狙われるよ」

まるで前から知っていたかのように的確な助言をしてくるんだ。そうして旅を続け、ある大きな街の手前に着いたときのことだった。子供は突然立ち止まり、にっこり笑ってこう言った。

「ここまででいいや。ありがとう」

驚いて理由を聞いたが、子供は何も答えなかった。ただ「気をつけてね」とだけ言って、群衆の中に紛れるように消えていった。

俺たちは探した。市場の路地裏も、街外れの小道も。だが、あの子の姿はどこにも見つからなかった。

それから何年も経ったが、俺はいまだに思い出す。あの子供は何者だったのか、と。ただの偶然の導きだったのか。
それとも、本当に未来を知っていたのか。

今では仲間の多くが別の道を歩んでいる。
だが、あの子供のことを話題にすると、皆が決まって黙り込み、最後に小さく笑うんだ。

「結局あの子のおかげで、俺たちは生き残れたんだよな」

「もしかして、冒険者の神様かもしれないな」

俺たちはそう笑いあったが、確かにあの子の導きがなければ、とっくにどこかで命を落としていたはずだ。

だから時々思うんだ。もし今もどこかであの子供が旅をしているのなら、誰か別の冒険者を導いているのかもしれない。

そう考えると、今もどこかで「僕も一緒に行く!」と笑っている声が聞こえる気がするんだよ。

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