#399 安定の三角形

ちいさな物語

恋の三角関係。

誰もが一度は耳にする、恋愛の泥沼ワード。でも俺が体験したのは、複雑すぎてドラマにも漫画にもできない代物だった。

まず登場人物を整理しよう。

俺、タカシ、幼馴染のユウジ、そして転校生のミカ。

この三人で三角関係――まあ普通に聞けば「青春かよ」って話だ。

だが問題は、ミカが異常にモテるタイプだったことだ。いや、モテるって言葉じゃ足りない。廊下を歩けば、男子の首が次々と折れそうな勢いで振り向く。女子ですら「あの子かわいすぎない?」とざわついた。

そんなミカに、俺とユウジは同時に惚れた。はい出ました。王道の三角関係。でもここからがあやしい。

正々堂々と同時に告白した俺たちへのミカの返答がこうだったんだ。

「うーん……どっちも好みのタイプかも。えーっと、選べないから、三角形がいいな」

三角形?

「だからね、タカシとユウジと私で三角形を作るの。きれいな正三角形! それが理想の恋なの!」

意味がわからん。恋愛を図形で表すやつがいるとは。いや、要するに両者公認の二股ということか?

困惑する俺たちにミカは本気の表情。

「正三角形って調和と安定の象徴なの。だから三人でバランスよく付き合えばいいのよ!」

――バランスよくって何!?

当然、俺とユウジは大揉めだ。

「お前、角度何度くらい担当する気だよ」

「お前は鋭角やれよ。俺はたっぷり鈍角がいいんだよ!」

「そんなに角度取ろうとするなよ。そんなんで愛は測れねぇだろ!」

数学の授業でもないのに、放課後の教室で三角関数の殴り合いが勃発。

その横で、ミカは「じゃあ私は底辺の真ん中でいい」と微笑んでいた。

……底辺って。なんかよくない響きなんだが。

さらに追い打ちをかけたのが、担任の数学教師。

事情を知った彼は眼鏡をくいっと上げ、黒板にこう書いた。

「△ABCの恋愛における安定条件」

「先生も参戦すんのかよ!」

「いや、私は審判だ。恋愛は図形的に解釈できる」

そして本気で図を描き始めた。頂点Aがミカ、BとCが俺とユウジ。そこに「中線」だの「外心」だの書き込み、挙句にこう言ったんだ。

「つまり、三角関係は円に内接すれば調和する」

意味不明だが、なんか説得力がある。しかもその瞬間、ミカが手を叩いて大喜び。

「そうよ。 私たち三人は円に守られてるのよ!」

もう何もかも意味がわからない。そもそも数学は苦手なんだよ。

結局どうなったかって?

俺とユウジは疲れ果て、互いに顔を見合わせてこう言った。

「もう……やめね?」

三角関係の勝者は誰でもなかった。

その後、数式と図形に酔いしれたミカは先生と付き合いたいと大声で吹聴しはじめた。今の社会でそれはシャレにならんて。

俺たちは「やっぱ恋は直線的にシンプルがいい」と学んだわけだ。

「タカシ、悪かったな」

「俺の方こそ。ユウジ、俺たちはズッ友だ」

俺とユウジは力強く握手を交わした。

ちなみに先生は生徒たちに事情を知らせることなく唐突に姿を消した。俺たちはミカが何らかの関与をしていると考え、おそろしくて震えた。

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