#435 おじさんの中のおじさんたち

ちいさな物語

あれは本当に妙な夜だったんです。

駅前のベンチに腰かけていると、不意に隣におじさんが座ったんですよ。よれよれのスーツ、手に持った紙袋からはパンの匂い。まあ普通のおじさんだと思いました。

ところが次の瞬間、そのおじさんの胸元がパカッと開いて、中から別のおじさんが出てきたんです。

「こんばんは」

姿も服もさっきのおじさんそのもの。でも、一回り小さい。

僕は驚いて立ち上がりましたが、誰も気にしていない。通り過ぎる人も見えていないみたいなんです。

小さいおじさんはベンチに座り直すと、僕に向かってこう言った。

「実は私、コレを操縦していたんです」

よく見ると、さっきのおじさんの体はまだベンチに座っている。胸元は閉まっているが、目は虚ろで動かない。どうやらロボットだったらしいが……。

「いや、意味がわからない」

僕がそう言うと、小さいおじさんは肩をすくめました。

「簡単ですよ。この大きなおじさんは私の操縦するおじさんロボットです。そして――」

そう言うやいなや、その小さいおじさんの背中がパカッと開いた。

さらに小さなおじさんが姿を現したんです。

「こんばんは」

同じ顔、同じ声、ただ縮小されただけ。

「えっ……まさか……」

「はい。私がコレを操縦していました」

次々と小さいおじさんが現れては「操縦していた」と名乗る。

僕の目の前に、マトリョーシカのように大きい順におじさんロボットが並んだ。

大きなおじさんロボットの中に中くらいのおじさん、その中に小さいおじさん、そのまた中にもっと小さいおじさん……。

数が進むごとに声は高くなり、体は掌に収まるほど小さくなった。

そして最後に、米粒ほどのおじさんがちょこんと僕の肩に乗って言ったんです。

「これで全部です。私は最小のおじさんで本体です」

あまりに突拍子もない光景に、僕は笑うしかなかった。

「――で、おじさんは一体何者なんだ」

米粒おじさんは真面目な顔で答えました。

「おじさんです」

「いや、それはわかってるんだけど」

「私たちは、おじさんであり、おじさんを操縦するおじさんでもあるのです」

「何のために?」

「その問いには答えられません。ただ……」

おじさんは小さな指で僕の頭をつついた。

「次は、あなたの番です」

すると僕の体が急に重くなり、目の前が白く弾けた。

気がつくと、僕は巨大なおじさんロボットの中に座っていたんです。

計器のようなものが並び、小さなレバーを握ると、外の大きなおじさんの腕がナチュラルに動く。

「操縦席……?」

背後を振り返ると、さらに小さなおじさんがにこにこと笑っていた。

「ようこそ。あなたもおじさんの一部になりましたね」

外の世界では、普通の人間サイズの大きなおじさんが歩き出していた。

「待て、戻してくれ!」と叫んでも、レバーは勝手に動く。

どうやら基本は後ろの小さなおじさんが操作しているらしい。

「ちょっと! ここから出して!」

「無理です。あなたも、私が操縦するおじさんロボットの乗組員の一員になりました」

そう言って彼は、胸元をパカッと開いた。

その奥から、さらにもっと小さなおじさんが顔を出した。

「……わかりますか?」

「わかるわけないでしょ!」

あの夜以来、僕はおじさんロボットに取り込まれてしまったんです。

今こうして話している僕も、本当に僕なのか、それともおじさんの一部なのか……。

だんだん自分が何なのかよくわからなくなってきているんです。

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