#436 不思議な旅の教訓

ちいさな物語

ひとつの不思議な旅の話を聞かせましょう。

あるところに三人の冒険者がいました。けれども彼らは出会ったことがない。互いの顔も名も知らず、それどころか存在すら知りません。

一番目の冒険者は、若い剣士でした。

彼は古い文献に記された「封印の遺跡」を目指し、深い森へと足を踏み入れたのです。木々は天を覆い、昼なお暗く、風も届かない静寂の世界。

彼は苔むした石段を登り、朽ちた門を押し開け、闇の中へ進んだ。

そこで彼は数々の罠と戦いながらも、そのいくつかを解除し、道を切り開いていった。

仕掛けを壊したとき、彼はふと考えたんです。

「この道を、誰かが後に通るかもしれない」

だから、道しるべとして石壁に小さな印を刻んでいった。剣の切っ先で残した矢印。それは安全な道を示す印だった。

けれども彼自身は、遺跡の奥深くで足を取られ、あっけなく命を落としてしまったのです。

しばらく経って二人目の冒険者が遺跡に現れました。

彼女は学者風の女で、文献の真偽を確かめるために「封印の遺跡」を訪れた。

最初は迷ったが、壁の印に気づいたんです。

「誰かが、ここを通った?」

その矢印に導かれ、彼女は迷路のような遺跡をすいすいと進みました。

崩れかけの床には板が渡され、壊れた扉には簡易の楔が差し込まれている。すべてが誰かが通った後であることを指し示していた。

彼女は感謝の思いを胸に進み、やがて祭壇の間にたどり着いた。

そこには古い巻物が残されていました。

けれども巻物を持ち上げた瞬間に罠が発動し、深い穴に落とされてしまいました。

彼女はその一瞬の間に次に来た人がこの貴重な巻物を王都まで持ち帰れるようにと、遺跡の片隅へ巻物を投げたのです。おかげでその巻物は罠のない場所に置かれた状態になりました。

そして三人目の冒険者が現れた。

彼は盗賊あがりの男で、金目のものを探して「封印の遺跡」に入ってきました。

彼もまた矢印の印に導かれ、遺跡を奥へ奥へと進んだ。

「なんだ、誰かが先に歩いた跡があるじゃないか」

彼はその努力に便乗し、祭壇の間へたどり着いた。

そこで彼が見つけたのが、あの巻物だった。

興味本位で広げると、そこにはこの大陸の地下に眠る「大いなる災い」の記録と、封印の方法が記されていた。

盗賊の男は、思いました。

「これは……よくわからないが売れば金になるだろう」

彼は巻物を持ち去った。その後どうなったのか――それは誰にもわからない。

ただ、確かなのはこういうことです。

剣士が刻んだ印が学者を導き、学者が遺した巻物を盗賊が拾った。三人は出会うことなく、互いの存在も知らぬまま、同じ冒険をつないでいたんです。

そして今も、その遺跡は森の奥に眠っています。新しい冒険者がもし足を踏み入れたなら、また誰かの痕跡を見つけることでしょう。

顔も名前も知らぬ者同士が、不思議な鎖でつながるように。

……どうです、ちょっと奇妙な話でしょう。

でも、この世にはそういうことがあるんですよ。知らぬうちに、誰かの続きを歩いているってことが。

先人の努力によって何かを成すというと、なんだか素敵なことのように聞こえるかもしれませんが、この三人の冒険者の話のように、必ずしもそれがよい結果につながるということはないんです。

これがこの国で語り継がれる『不思議な旅』という教訓のお話。この教訓から何を得るのかはあなた次第ですけれどね。

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