#454 超能力探偵の秘密

ちいさな物語

僕は名探偵の助手をしている。

名前は伏せるけど、うちの探偵は業界でもそこそこ名が知られていて、依頼が絶えない。新聞やテレビにも取り上げられるくらいだから、まあ世間的には「名探偵様」ってことになってる。

確かに頭はいい。知識量も豊富だし、観察眼も鋭い。イケメンで、クライアントからもモテモテ。

――けどな、僕は知ってるんだ。あの人の正体を。

最初に違和感を持ったのは、盗難事件の現場だった。依頼人は「誰かが大切な宝石を盗んだみたいだ」って泣きついてきたんだ。

僕はてっきり指紋採取や聞き込みから始めるのかと思った。ところが探偵は、依頼人の家に入った瞬間、窓際で数秒じっと目を閉じたんだ。

次の瞬間、にっこり笑ってこう言った。

「犯人はお手伝いさんです。左ポケットにまだ宝石が入っているはずですよ」

依頼人が驚いて問いただすと、本当にその通りだった。

このとき、探偵はまったく証拠を集めている様子がなかった。要するに根拠ゼロで犯人を言い当てたのだ。僕らはお手伝いさんの存在すら聞かされていなかった。

それからもそういうことが何度もあった。

「足跡の形から犯人が男性だと推理しました」なんて言うけど、どう考えたってそんなのは後付けだ。なぜなら僕への探偵の発言が足跡を見る前から男性だと決めつけているように思えたからだ。

「血痕の位置から凶器の場所を特定できました」って言うけど、探偵は現場に入る前から犯人の持っていた凶器の場所を僕に知らせていたんだ。隠されないように見張っとけって。

要するに何が言いたいかというと――全ッ部が超能力のなせる技ってこと。

あ、君はもしかして、僕の方がどうかしてるって思ったかい?

実をいうとね、僕にも超能力があるんだ。探偵と同じものを見ていたんだよ。僕は触れた物の記憶を感じとれるんだ。

地面に触れれば歩いていた人の姿、テーブルに触れれば座っていた人たちの様子、そして犯行現場で凶器に触れればそれを持っていた犯人の顔がわかる。

探偵にも似た能力がある。そうでないとこれまでの「推理」の説明がつかない。

だけど依頼人の前では絶対にそれを口にしない。全部「推理で解き明かした」と言い張るんだ。たまに推理であることを強調するために、証拠をでっちあげたりもしている。

世間は「さすが名探偵!」と持ち上げるけど、助手である僕は内心もやもやするんだ。だって、みんなのことを騙しているんだから。

「――あの、それ全部超能力ですよね?」

実は思い切ってそう突っ込んだことがある。でも彼は悪びれもなくこう言った。

「その通り。超能力なんて信じてもらえないだろう? それなら推理ってことにした方が依頼も来やすいし、信頼も得られる。合理的だと思わないかい?」

合理的かどうかはさておき、ずるいと思った。だって世間から天才扱いされ、女性にモテまくり、報酬もがっぽり。

いやいや、僕だってやろうと思えばできるけど、あえてやらないんだ。だってそれはズルだからね。

――とはいえ、あの人がいなきゃ解決できない事件があったのも事実だ。

ある時なんて、人質立てこもり事件で、犯人がどの瞬間に引き金を引こうとしているかを読み取って、わざと窓を割って注意を逸らし、人質を救った。あれは推理じゃできない芸当だし、もちろん僕にだってできない。僕は過去……物の記憶しか見ることができないからだ。

そのとき思ったんだ。同じものが見えていると思っていたが、僕と探偵では別のものが見えているのではないか。

「――何が見えているんですか」

「なんだろうな。君が見ているものと交換で教えてあげてもいいよ」

ハッとした。探偵は僕が何かを見ていることは気づけても、何が見えているのかわからないのだ。

そりゃあ、僕は目立ちたがり屋の探偵様みたいに見えたものをあちこち吹聴したりしていない。

「何が見えるのか知りたいですか?」

「――知りたいね。僕の推理によると、君の力は仕事に役立ちそうだ」

「教えません」

「そうか。残念だ」

精一杯の嫌がらせにも涼しい顔をしている。

仕方がないから、今度「推理」に苦戦しているようなときは、僕の見ているものの話をしてやろうか。探偵様も僕のありがたみに気づくかもしれない。

そう思うと少しだけ愉快な気持ちになってきた。

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