【9月25日】
今日は先生が遠足のことをはなしてくれた。
来月のはじめに行くんだって。行き先はまだひみつだけど「ふつうの場所じゃないからお楽しみに」と言ってた。どんなところだろう。ワクワクして、友だちと帰り道にずっとその話をした。
【9月27日】
遠足で食べるお弁当のことを考えた。お母さんにきいたら、「そうね、長旅だから、すぐ食べられるものにしましょう」って言った。長旅? そんなに遠いのかな。バスで行くと思っていたけど、もしかしたら電車かな。
【9月29日】
先生がプリントをくばった。「集合は午前3時、校庭」と書いてある。え? 3時? 寝てる時間じゃないか。みんなざわざわしてたけど、先生は「いい経験になりますよ」ってにっこり。解散時間は書いてなかった。たしかに、夜にみんなに会うのはちょっとワクワクするかも。
【10月1日】
遠足はバスで行くと思っていたら、「専用の乗り物」が来るらしい。先生は「動くときはみんな一列で、ぜったいに後ろを振り返らないこと」と言った。どうしてだろう。振り返っちゃだめって、なんだかこわい。でも友だちは「探検みたいだな!」ってわらってた。
【10月2日】
お弁当の注意があった。「必ずおにぎりにしてください。具は入れないこと」どうして? ってみんなで質問したら、先生は「かおりが強いと困るから」って。困るのはだれなんだろう。
【10月3日】
持ち物の連絡があった。
・水筒
・おにぎり
・目かくし用の布
「乗り物にのるときに使います」って言われた。
目かくしをして乗り物にのる遠足なんて聞いたことない。でも、先生は「心配しないで、いい思い出になるから」って。
【10月4日】
きょうはお兄ちゃんに遠足の話をした。「おまえの遠足、ヘンだよな」って笑ってたけど、ちょっと本気で心配してる顔だった。「もしおかしいと思ったら逃げろよ」って言った。でもどうやって逃げればいいんだろう。何から逃げるの?
【10月5日】
前の日の夜はぜったいによくねむってください、って先生が言った。「途中で目をさますと、道がわからなくなるから」って。乗り物で行くのに道がわからなくなるなんて変だ。でも、もうみんな詳しく知るのはあきらめていて「まあいいや、いってみればわかる」って言ってた。
【10月6日】
先生がぽろっと言った。「この学年は、順番だから」順番? 何の? って聞いたら「去年の子たちもちゃんと行ったんですよ」と笑った。でも、去年の遠足の話、そういえばだれもしてなかった気がする。
【10月7日】
出発はあしたの夜中。準備はぜんぶそろった。目かくしの布もリュックに入れた。でもお母さんはなんだか顔色が悪い。「気をつけてね、ちゃんと帰ってきてね」って、手をぎゅっとにぎってくれた。なんで「帰ってきてね」ってそんなに強く言うんだろう。「遠足は家に帰るまでが遠足」ってことを言いたいのかな?
【10月8日】
夜中の3時に校庭に集合。先生はいつもよりもすごくきちんとしたスーツを着ていた。校庭のすみに、大きな黒い乗り物がとまっていた。バスじゃない。窓もない。音も立てていない。先生が言った。「ではこれから……へ行きます」先生の声、よく聞こえなかった。どこへ行くって? 僕はまだ日記を書いているけど、もうすぐ乗らないといけない。ぜったいに振り返っちゃいけないんだって。だから、この日記もここでおしまい。家に帰ったらまた書くね。
コメント