#451 食玩コレクションの部屋

ちいさな物語

最初にその食玩を手に取ったのは、コンビニのレジ横でした。

小さな箱にカラフルなキャラクター。子ども向けの菓子かと思ったんですが、なぜか大人の僕まで惹きつけられたんです。

「全12種類+シークレット1種」

おまけのフィギュアは、古風な人形や見知らぬ道具のミニチュアで、どうにも不思議な雰囲気があった。

試しに一つ買って開けてみたら、中から小さな木彫りの椅子が出てきた。見事な細工で、木目や傷まで精巧に再現されている。

「……なんだこれ。すごいな」

正直、子どものおまけとは思えない。あまりの出来の良さに驚いて、気づけば翌日も買っていた。

今度は古い鍵。次はひび割れた土器。なぜこれをフィギュアにしたのか理解できないが、妙にリアルで存在感があった。

気づけば僕は夢中になっていて、コンビニやスーパーを回り、箱を見つけるたびに買ってしまった。

だが、どうしても出ないのがあったんです。

「シークレット」

パッケージには影のシルエットだけが描かれていて、正体は明かされていない。ネットを探しても情報がない。レビューや開封報告すら、なぜか見当たらなかった。こんなに出来がいいのに、なぜ誰も注目していないのだろうか。

僕はついに箱買いをするようになった。シリーズ化されていたようで第一弾、第二弾と集める対象が無限にあるように感じられた。一度に20個、30個と積み上げては開封し続ける。

机の上には小さな家具や道具が増えていき、やがて部屋の一角にフィギュアが乱立していった。

なのに――シークレットは出ない。

ある夜、ふと気づいたんです。机に並べたフィギュアを配置すればリアルな部屋が作れることに。椅子、机、棚、食器、ベッド、調理器具まで、一通り揃っていた。せっかくなので100均で買った箱にジオラマのように家具を置いて小さな部屋にしてみたんです。なかなかの出来栄えに満足しました。

「おいおい、これって……」

笑いながら最後の箱を開けた瞬間、背筋が凍りました。中に入っていたのは、小さな人形――というか、精巧に作られた「人間」だったんです。

今まで集めた家具や道具にぴったり合うサイズで、古びた服を着た「人間」。関節は柔らかく曲がり、爪の細かな筋まで入っている。それは縮めた人間そのものでした。それが眠っているかのように目を閉じた状態で箱に入っていたんです。箱の説明書にはこう書いてありました。

「シークレット:住人」

ぞっとして部屋を見渡した。ジオラマの真ん中に人形を立たせると、不思議なことにすべての小物がこの「人間」のためだったかのようにぴたりと収まる。

シークレットを当てた達成感より不気味さが先立ちました。あまりにリアルすぎる。まったくおもちゃには思えない。

その夜からです。

寝ていると、耳元で小さな物音がするようになった。

カタン……カタリ……。

机の方を見ても、特に音を立てているものはない。

でも、朝になると人形の位置が必ず変わっている。椅子に座っていたり、棚の前に立っていたり。

そして昨日の夜、人形がドアの前に立っているのを見たんです。小さな鍵を手に持ちながら。今にもジオラマの外に出ようとしているかのように……。

僕は怖くて眠れなくなった。

でも、まだ開けてない箱がいくつか残っているんです。開けるべきか、それとも――このまま捨てるべきか。

そう、シークレットは第一弾、第二弾――とすべてのシリーズにひとつずつ設定されているんです。だから、もしまだ開けていない箱にシークレットが入っていた場合は……。

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