あのときの宿題は、今でも忘れられない。
中学二年の夏休み明け、理科担当の変人教師、藤巻先生が言ったんだ。
「次回の宿題は――UFOを呼んでくること!」
クラス中が爆笑したよ。「先生またふざけてる!」って。だけど、先生は本気の顔をしていた。
「宇宙は広い。呼べば必ず『何か』が、応えてくれるはずだ。やり方は問わない。証拠を示せば加点だぞ」
クラス中が戸惑っている中、藤巻先生は教室を出て行ってしまい、本当にそれが宿題に確定しちまった。
普通なら無視するか適当に証拠をでっちあげたりして出すんだろうけど、俺と数人の友達は「とりあえず」と、やってみるだけやってみることにしたんだ。
「どうやって呼ぶ?」
「円陣組んで『ベントラ、ベントラ……』が王道じゃね?」
「いやいや、そんなの古いって。屋上で鏡を反射させて信号を送ろう」
「そんなん気づいてもらえるかな。ペットボトルロケットを飛ばしてメッセージ送ろうぜ」
「ペットボトルなんてすぐ落ちてくるだろ」
いろんな案が出たけど、最終的には「広い公園で夜に円陣、呪文」っていうベタな方法に落ち着いた。
おばあちゃんの知恵袋じゃないけど、昔から残っている方法というのは何かしら効果がある……と、思ったんだけど。
夏休み最後の夜、俺たちは人気のない公園に集まった。この公園はだだっ広い芝生のグラウンドが人気で、日中は親子連れや犬の散歩をする人でにぎわっている。
夜になると人はほぼいなくて、街灯も少ない。グラウンドは満天の星が広がって、空が異様に広く感じた。
「よし、始めるぞ」
俺たちは円になって手をつなぎ、息を合わせて叫んだ。
「ベントラ、ベントラ」
「スペースピープル」
「UFOさーん! 宿題なんで来てくださーい!」
バカみたいだったよ。だけど、星空に声が吸い込まれていく感覚は、不思議と気持ちよかった。
十分経っても何も起こらない。みんな半笑いで「ダメだ。解散するか」って言い出したそのときだった。
空の一点が急に明るくなったんだ。
最初は流れ星かと思った。でも違った。光は止まり、ゆっくりと降りてきたんだ。
「……え、マジで?」
俺たちは手をつないだまま固まった。
光は円盤のような形をしていた。表面は金属でもあり、水面のようでもあり、目がくらむほど眩しかった。
「来た……?」
誰かが震え声でつぶやいた瞬間、頭の中に直接声が響いた。
――呼んだのは、あなたたちですか。
耳じゃなく、脳に直接響いてくる。全員が同時に息を呑んだのがわかった。
「は、はい……あの、宿題で……」
俺が答えると、しばらく沈黙があった。
――宿題、ですか。また藤巻先生ですね。では、加点になる証拠を差し上げましょう。
次の瞬間、俺たちの足元がふっと浮き上がった。身体が軽くなり、空へと引き上げられていく。円盤の下に吸い込まれていく感覚。
気づけば、真っ白な空間に立っていた。
周囲には人のような影がいくつも揺らめいていた。顔も体の形もはっきりしない。ただ、そこに「意識」があるのがわかる。
「……なに、これ……」
――怖がらなくていい。あなたたちは特別です。そう言われて、胸がざわついた。
「特別って、何が!?」
――藤巻先生の生徒さんでしょう?
「そうですけど……藤巻先生って何者?」
答えはなく、ただ光が強くなり、意識が遠のいた。
気づいたとき、俺たちはもといたグラウンドに倒れていた。
全員無事だった。だけど、腕には見覚えのない小さな痣がついていたんだ。円形で、まるで刻印のように。
翌日、俺たちは痣を見せ合って絶句した。全員に同じ痣があったんだ。
宿題の発表の日。先生の前で痣を見せると、先生は目を輝かせてこう言った。
「よくやった。間違いなくUFOを呼べたみたいだな。楽しかっただろう?」
クラスは「嘘つくな!」「でっちあげやがって」と、大爆笑だった。
でも、俺たちだけは笑えなかった。だって、本当にUFOは来たし、宇宙人は先生のことを知っていた。先生は本当に何者なんだろう。
それから俺たちは藤巻先生には絶対に逆らわないように、変な宿題も素直にこなすようにした。宇宙人の知り合いがいるなんて怖すぎるだろ。
コメント