#485 小さな光の魔法

異世界の話

この魔法は本当にくだらない。

指をパチンと鳴らせば小さな光が灯る。ただそれだけ。熱もないし、眩しさもない。道を照らすにも弱すぎる。

見せても笑われるだけだ。手品の一種だと思われているみたいだが、手品にしても地味極まりない。

「そんな魔法、ホタルの代わりにもならないよ」

幼馴染のカレンにそう言われたとき、本気でこの魔法を捨ててしまいたくなった。捨て方は知らないけど。

でもどんなに無意味でも、俺の指先からは光が出るのだ。小さい、頼りない、それでも確かに光る。

俺が生まれた村では、魔法の素質がある者は国の運営する魔法学院に送られる。そうなれば生活の保障も手厚い。しかし俺は入学試験で落とされた。

「光魔法としては低レベルすぎて入学を許可できない」と講師に言われた。他の子たちは炎を生み出したり、風を操ったりしているのに、俺は「ピカッ」と小さな光を出すだけ。

一応、魔法使いの端くれくらいには思っていたが、入学できなかったことで、端くれ以下である烙印を押されてしまったことになる。

村ではからかわれ、ガキどもからは「チカチカ」とあだ名をつけられた。まあ、実際チカチカするだけだから反論できない。

それでも時々、夜の野原で光を出してみる。広いところでは光は指先から離れて自由に浮遊させることができた。

草の上に無数の小さな光を生み出して、まるで自分だけの星空みたいにする。それを見てると、不思議と落ち着いた。

カレンはそんな俺を見て笑った。

「ホタルのほうが可愛い」

「あれは虫だぞ。俺の光だってきれいだろ」

「うーん……ちょっと眩しいホコリって感じかな?」

ひどい例えだったけど、カレンは笑っていた。その笑顔を見て、俺は少しだけ救われた。

あの夜のことは、今でもはっきり覚えている。村の裏山で火事が起きた。雷が落ちたのが原因らしい。

騒然となり、多くの村人たちが避難した。だが、カレンの姿が見当たらない。

「山裾の森に薬草を採りに行ってる!」

誰かが叫んだ。

大人たちは火を恐れて近づこうとしなかった。炎の勢いは早く、山の中はすぐに煙に包まれた。俺は走った。足が震えていたけど、火に囲まれた森にいるカレンのことを思うと止まれなかった。

森は真っ黒で、煙で息ができない。道もわからない。それでも、どうしてもカレンを見つけたかった。

「カレン!」

何度も叫んだ。返事はない。俺は思わず指を鳴らした。小さな光がピカッと灯る。

ほんの点のような明かりだったが、煙の中でゆらゆらと漂い、木々の影をかすかに照らした。すると、遠くで誰かが小さく咳き込む音がした。

「カレンか!?」

光をもう一度出す。パチン、ピカッ。そのたびに煙の中の何かが反射して光る。

「こっち……!」

かすれた声が聞こえた。息を切らしながら走ると、倒れた木の下にカレンがいた。足を挟まれて動けないでいた。

「待ってろ!」

力任せに木をどけ、彼女の腕を引く。だが炎が近い。煙が目にしみる。もう少しで道も見えなくなる。

カレンが叫んだ。俺は再び指を鳴らした。

ピカッ。その光が、まるで風に誘われるように漂っていく。まるで俺たちを導くように――

今まで知らなかったが、もしかしてこの光は何かの法則に則って動くのか?

「道が……!」

カレンが指差す。俺たちは光を追った。光は揺れながらも確かに進む。倒木の間を抜け、岩を回り、最後に森の端でふっと消えた。

その瞬間、俺たちは村の外れに出ていた。息を切らして倒れ込む。背後で、森が炎に包まれる音がした。

「助かった……」

カレンは震える手で俺の腕を掴んだ。目に涙が浮かんでいた。

「あなたの光、ホタルよりずっときれいだった」

俺は何も言えなかった。ただ、指先が少しだけ温かかった。

火事のあと、村はほとんど焼け落ちた。でも、不思議なことに被害者は一人も出なかった。いくつも淡い光が安全な道に向かって漂っていくのを見て、村人たちはそれについて行って助かったのだと言っていた。

誰もがそれを「精霊の導き」と呼んでいた。それが俺の魔法とは気づいていないみたいだったけれど、誰かの役に立ったのなら、それでいい。

多分だけど、俺の魔法は俺と同じくひどく臆病で、危険にさらされると真っ先に安全な道を見つけ出して逃げ出す特性があるようだ。もしかして、これは思った以上に使える魔法なのではないか……。

その後、魔法学院から手紙が来た。

「光導魔法として再評価する。入学を認める」と書かれていた。

カレンは俺の肩を叩いて笑った。

「すごいじゃない。あのホコリ魔法が、ついに国公認よ」

「ホコリって……もう、うるさいな」

「でも、人の命を救ってくれるホコリだもんね」

その笑顔を見て、俺は思った。

ああ、この光はくだらないなんて言えない。俺は今日も練習を続けている。暗いダンジョンの中や、先日のような災害のとき、もっと多くの人を助けられるように――。

ピカッ、ピカッ。

ほんの少しの光が、誰かの夜を照らし、笑顔にできるように。

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