#551 告白は戦争だと思っている

ちいさな物語

まず最初に言っておく。

告白はイベントではない。儀式でもないし、雰囲気作りでもない。

ましてや「気持ちを伝えるだけ」なんていう、ふわっとした概念では絶対にない。

告白とは、準備九割九分、実行一分の情報戦であり、心理戦であり、環境構築ゲーである。

俺がそう確信したのは、高校二年の夏、三連敗を喫したあとだ。

一回目は夕焼け補正に頼った。夕焼けの雰囲気で押し切れると思ったが――負けた。

二回目は雨補正を使った。ずぶ濡れの男への同情心が作用し、さらに多少はイケメンに見えるかと考えたが――負けた。

三回目は「今言わないと一生言えない気がする」という感情バフに全振りした。そして当然のように負けた。

そこで俺は気づいた。

これは感情で適当に殴るゲームじゃない。高度なシミュレーションこそが勝てる秘訣だ。

まず相手の行動ログを洗い出す。

返信速度、文体の揺れ、スタンプ使用頻度、笑いの方向性。ここで重要なのは「脈あり判定」を急がないこと。

脈なんてものは、「後から思えば」というような、いわゆる概念であって、当事者に正確に把握できるものではない。頼りはデータに基づいた傾向のみだ。

次に環境。

告白場所にロマンを求めるやつは全員初心者。夕焼けも雨もダメだった。静かで、邪魔が入らず、気がそれない。この三点が揃って初めてスタートラインに立てる。

夜景スポット? 人がいる時点で論外。相手は人に聞かれている状況を嫌がり、その場を離れたくて仕方なくなる。

音楽? 効果がないことはないが、相手の感情を誘導しようとするのはフェアじゃない。

それに音楽の夢が覚めたとき、何が起こるか。これは想像にかたくない。騙された感じがする、雰囲気にのまれた、そんなこと言われたくないだろ?

そして最大のポイント。

告白文言。

「好きです」だけで勝てると思ってるやつは、チュートリアルをスキップした初心者か、高レベルのイケメンだ。後者は勝てるが、前者はアウト。

重要なのは、相手が断ったときの未来まで含めて提示すること。ただ――

「もしダメでも、今まで通りでいい」

これは言ってはいけない。

逃げ道を与えれば、相手は現状維持を選択する可能性がきわめて高い。人間とはそういうものだ。

正解はこれ。

「これから、俺はこういう関係を望んでる」

そして選択肢を提示する。

YESかNOではない。

AかBだ。もちろんAもBも、さらなる親密な関係を意味する選択肢を提示する。

人は選択肢を与えられると、反射的にどちらかを選ぼうとするからだ。単純にいえば、俺と付き合うか、もしくは俺と付き合うかを選んでもらうことになる。その元も子もない選択肢に気づかせないように巧みに文言を準備するのがポイントだ。

ここまで準備して、ようやく告白当日。

心臓がうるさい。声が裏返りそうになる。だが、そこで俺は思い出す。これは戦争だ。

俺はこれまでのログと準備にすべてを賭けている。結果は後からついてくる。

そして――失敗した。

理由?

俺が、しゃべりすぎたからだ。

AとBを提示するつもりが、なぜかCとDと補足資料と前提条件とただし書きと想定リスクと代替案まで口から出ていた。

相手は途中から、うんうんとうなずきながら、徐々に目の光を失っていった。早くこの時間が過ぎてほしいとでも言うように。

そして、最後に返ってきた言葉は、これだ。

「ごめん、なんか……会議みたいで、結局何なのかよくわからなかったから帰るね。あと、そのしゃべり方、ちょっと昔のオタクみたいでなんかヤダな」

俺の脳内で、これまで積み上げてきた理論が、音を立てて崩れた。

そうか。告白必勝法の正体は、「考えすぎない」だったのかもしれない。

愛は衝動じゃない。設計でもない。たぶん、設計図を見せた時点で、負けなんだ。

そして今でも俺は思っている。

恋愛はロマンじゃない。

でも、理論で完全武装した告白が、あんなに無様に散るとは思わなかった。

だから今日も俺は、誰にも頼まれていない恋愛理論を、早口で語り続けている。

勝ちたいからじゃない。失敗を――正当化したいからだ。

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