#554 使い魔たち

ちいさな物語

自分が不思議な力を持っていることに気づいたのは子供のころのことでした。

ある日、遊びのつもりでふと「ついてこい」とつぶやいたら、放し飼いにされていた犬がしっぽを振って僕の後をついてきたんです。田舎でしたからね、その辺に犬がいたんですよ。

まあ、それ自体は気のせいとか、たまたまとかそう思うでしょう。

その犬は、普段は僕には全然なついてなかったんです。餌をやったことがあるけど、餌だけ取っていって見向きもしなかった。したたかなものです。

でもその日からは僕の目をじっと見て、命令を待っているように従順になった。

それが最初の「使い魔」でした。そのときは、急になついたのかなくらいに思っていました。

それで、試しに猫にもやってみたんです。

「おいで」

そう言うと、近所の野良猫がすぐに足元にすり寄ってきた。地域猫とかそういうのではなくて、本当に野良猫なので、人を危険だと思って避けているような猫です。でもこのとき、まるで昔から僕の飼い猫だったかのように喉を鳴らしていたんです。

そこで気づいたんです。僕には、生き物を従えて「使い魔」にする力があるんだ、と。子供の発想ですからね。「使い魔」なんて中二病みたいな説明をしていますが、ずっとそういう認識でいたので、ちょっと恥ずかしいんですが直せないんですね。

最初は犬や猫だけでしたが、好奇心は止まりません。

ある日、台所に現れたゴキブリに向かって言ってみたんです。

「動くな」

すると、本当にピタリと止まった。「こっちへ来い」と命じると、カサカサと僕の方へ走り寄ってきたんです。気味が悪くて思わず後ずさりましたが、同時に妙な興奮を覚えました。虫にも使えるのかって。

それからは虫にも試しました。

バッタ、カブトムシ、蝶……みんな僕の言葉に従った。

学校帰りに原っぱでバッタを従えて行進させたときなんかは、まるで小さな軍隊を率いているようでした。

ただ、だんだんとその力は僕を孤独にしていきました。

友達に話しても信じてもらえないし、むしろ気味悪がられた。犬や猫が妙に従順になるのを見て「お前、何か餌みたいなの持ってるんだろ」とタネがあることを疑われる。

だから僕は秘密にしたまま、こっそり使い魔たちを増やしていった。虫なんかは寿命ですぐ死んでしまいますが、外に出ればどんどん増やせますからね。

やがて僕の部屋は、犬や猫の寝床だけでなく、虫かごや段ボールでいっぱいになりました。ゴキブリですら逃げ出さず、静かに隅で待機している。

ゴキブリは使えますよ。人間が反射的に嫌悪しますからね。小さいのにすごい効果があります。何にどう使うかはちょっと言えませんけど。

とにかく僕の部屋の光景は異様だったでしょうね。母は頭を抱えていました。犬や猫はともかく、虫には本当に辟易している様子でした。

ある夜、外を歩いていたら、不良に絡まれたことがありました。数人で囲まれ、「金を出せ」と脅された。

怖かったけど、僕は小さくつぶやきました。

「来い」

すると、街路樹の影から犬が数匹現れ、電線の上からはカラスが舞い降り、側溝からゴキブリの群れが這い出してきた。

不良たちは悲鳴をあげて逃げていった。

そのとき、初めて「この力は武器にもなる」と実感しました。けれども同時に、胸の奥に冷たい感覚が広がったんです。

「俺は……人間よりも、犬や猫や虫たちといる方が安心する」

そう気づいてしまったからです。人間は使役することができません。ちょっと引くかもしれませんが、試してみたことはあるんです。結果、ダメでした。

それからしばらくして、奇妙な夢を見るようになりました。

夢の中で、犬や猫や虫たちが輪になって僕を囲み「次は我々が君を使う番だよ」と囁くんです。

目が覚めると、部屋の中で犬や猫が静かに僕を見ていた。

バッタが壁に並び、ゴキブリが布団の周囲を取り囲んでいた。

あのときから、僕は察してしまったんです。この能力は単純に僕が得をするというものではないって。きっといつか代償を支払うときがくるんだ。

ただひとつ確かなのは――代償を支払うそのときまでは、僕の言葉ひとつでこの街のあらゆる生き物が動き出すということ。

どうせ僕はろくな死に方ができないだろう。だからこそ、今のうちに使い魔たちを便利に使ってやろうと考えている。

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