#564 ダンスタウンダンス

ちいさな物語

最初は「新手のフラッシュモブか?」って思ったんだよ。

月曜の朝、駅前。全員がスマホを見ながら歩く、いつもの朝だと思っていた。

そこへ突然、パン屋の店員がトングを持ったまま、ヒップホップのステップを刻み始めた。

トングをカチカチと鳴らしながら、腰をクイックイッと振る。キレッキレの動きだ。

ツッコむ間もなく、隣のサラリーマンがネクタイをブン回しながらサルサを踊り始めた。

ネクタイがビュンビュンと風を切っている。

「何なんだよ。危ねえな」

実はこの時点でもうこの町は終わっていた。

信号待ちの人たちが一斉にムーンウォークをはじめる。

犬の散歩中のおばあちゃんがステップを踏み、犬まで謎に回転しはじめた。

タクシーの運転手が窓から上半身だけ出してウェーブ。

「前、見ろ!」

――これ、未知の感染症じゃないのか? 体が勝手に踊り出し、しかし踊っている当人は困惑顔だ。

実は、そんな冷静な分析をしている俺も例外じゃなかった。

足が勝手に「パラパラの亡霊」みたいな動きをしていた。やめたいのに、全身が勝手に「イェーイ」ってやってる。

最悪だ。

そんな中、町内会のLINEに通知が入る。あるんだよ、町内会連絡用のグループLINEが。

『現在町内で発生している踊り病の原因が判明しました。神社です』

え、神社?

誰だよ。そんな怪しいスピリチュアルな通知を投下したヤツは。――と確認すると、これが町長である。

その直後に神主の佐々木さんがブレブレの動画付きでメッセージを送ってきた。

拝殿の前で、狛犬がツイストしてる。

「石も踊るのかよ! もうバッキバキの超常現象じゃん」

佐々木さんのメッセージは続く。

『当神社で祀っている神様はいたずら好きでして。今回は派手にやらかしています。私も踊っているので、祈祷はおろか、LINEを入れるのが精一杯』

そこでしばらく間が空いた。踊っているのだろう。俺ももちろん踊っている。

『踊りを止めるには拝殿で柏手を2回』

途切れるようなメッセージ。苦労がうかがえる。

柏手は手で打つんだから、踊りながらできるだろ――と、思ったらそれが甘かった。

まず足がいうことを聞かないので、目的地に向かえないのだ。踊りながら神社から遠ざかっていく。

見ると佐々木さんが踊りながら商店街の方へと去って行った。

神主が追い出されている……。

一体どうすればいいんだ。多くの人が神社に向かおうとして、くるくる回転させられていた。

しかも神社までの道、石段を踊りながら登ったらどうなる?

今まさに数人の勇気ある男たちが踊る足を無理やり石段にのせようとしていた。

そして――転んだ。しかも転ぶ瞬間もリズムにのっている。

ドタッ、バタッ、ドタッ。

ミュージカルみたいだな。

俺も手が勝手にクラップする。スマホを落としそうになって、慌てて手を伸ばした。

あれ? 腕は多少いうことを聞くぞ。

隣で消防団がホースを持ったままラインダンスしている。

警察も人を誘導しながら、あるいは拝殿に向かいながら、踊り狂っている。機能しているとは言いがたい。

「こちらへどうぞ(ステップ)危険です(ターン)」

俺は悟った。この町、このままでは全滅する。

踊り続けて、みんな膝が爆発して、神様だけが大笑いして町の歴史に幕が降りるんだ。

何とかするしかない。でも、どうやって?

思いついた方法は極端だった。俺は昔、熱血少年漫画で見たことがある。代償はかなりデカいが、やるしかない。

わかっている事実は2つ。

踊りは強制で拝殿には近づけない。そして、腕はある程度こちらの意思で動かせる。

「やるなら、これしかねぇだろうが!」

俺は道路脇のお地蔵様を持ち上げると、踊り狂う自分の足にぶつけた。

骨が折れるひどい音とすさまじい激痛。正直なめてたかも……と、心が折れそうになる。

そう、攻略方法は足を無効化することだ。

周りは踊りながらどよめいている。

俺は脂汗をダラダラと垂らしながら、足を引きずり、腕の力で神社へと這って行った。

ひどいことに折れて動けなくなった足は、なおも踊ろうとするので、激痛はおさまることがない。

俺は歯を食いしばって耐え、腕の力だけ石段を登る。石段一段ごとに、俺は肘で体を引き上げた。

汗、鼻水、涙、あと、どこからともなく流れてくる謎のEDM。

後ろでは町中が踊り狂っている。石段の上から見渡せる商店街は、もはやイケイケのクラブ。

そして俺はなんとか拝殿にたどり着く。痛みで気を失いそうだが、俺は最後の力を振り絞って上体をあげた。

ここで柏手を打つのみ!

大きく息を吸い込む。

「これで、どうだ!」

パン!パン!

柏手を2回。

その瞬間。

町中の音が、スン、と消えた。世界が一拍、無音になって。次の瞬間、ドワァァ!と大歓声があがった。

踊りから解放された人たちが勝利の雄叫びをあげながら、拝殿を駆けあがってくる。

「うおおおおお!」

「ありがとうううう!」

「早く! 救急車を呼ぶんだ!」

俺は拝殿に倒れ込みながら笑った。

そこで、鈴の音が一つ、チリンと鳴った。そして拝殿の奥から気配がした。

『ははっ、おもしろかった』って小さな声がする。

俺は辺りを見渡したが、誰も声には気づいていないようだった。

俺は周りに「英雄だー!」と担ぎ上げられ、救急車に乗せられた。

足の完治には3ヶ月かかった。

しかし、あの調子だと、あの神様がまた何かやらかすような気がして仕方ない。あの神社に祀られているのは、この町の悪霊といっても過言ではないことが判明したできごとであった。

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