深夜、ふと目が覚めた。
喉が渇いたわけでもない。トイレに行きたいわけでもない。
でも、何かの気配がする。
布団からそっと抜け出し、廊下に出る。
暗闇の中、トイレの扉の隙間から、ぼんやりとした光が漏れていた。
誰かいる……?
恐る恐るドアを開けた。
そこにいたのは——
白く、ふわふわと宙を舞う、小さな存在。
「♪ラ〜ラ〜ララ〜ラ〜ラ〜♪」
……歌っている。
高音で、妙に美しい声だが、なぜか腹が立つ。
よく見れば、それはトイレットペーパーだった。
輪郭がぼやけた妖精のような姿をしているが、確実にトイレットペーパーだ。
「……何?」
恐る恐る声をかけると、妖精はくるりと回転し、こちらを見た。
「私はトイレットペーパーの妖精。名をペパリーナという!」
「……帰ってもらっていい?」
「嫌だ!」
ピシャリと即答された。
仕方なく、話を聞くことにした。
ペパリーナ曰く、彼女はトイレットペーパーの精霊で、人間が紙を大切に使っているか見守る役目を持っているらしい。
「最近、君はトイレットペーパーを雑に扱っている!」
「は?」
「ちぎり方が乱暴!使いすぎ!ダメ、絶対!」
「……そんなことないと思うけど」
「ある!!」
ペパリーナはクルクルと回りながら、歌い出した。
「♪ペーパーは大事♪ 無駄にしちゃダメ〜♪ 環境破壊は〜♪ 許さない〜♪」
うるさい。
「静かにしてくれない?」
「ダメ!!」
それからというもの——
夜中になると、ペパリーナが現れては歌い続けるようになった。
「ペーパーはやさしく ちぎ〜る♪ 力を込めずに ちぎ〜る♪」
やかましい。
何度も追い払おうとしたが、ペパリーナは執拗に歌い続けた。
「ペーパーをムダにする者は、夜な夜なこうして監視されるのだ!」
「呪いかよ……」
寝不足でフラフラになりながら、ふと思った。
(……こいつ、燃やしたら消えるんじゃないか?)
だが、そんな考えが読まれたのか、ペパリーナは涙目になった。
「そんなことをしたら、君のお尻が一生拭けなくなる呪いをかけるよ?」
「それは困る!!」
結局、ペパリーナとの共存生活は続くことになった。
それから数週間後——
俺は驚くほどトイレットペーパーを丁寧に使うようになっていた。
いつの間にかペパリーナの歌も耳に馴染んできた。
「♪やさしくちぎって、くるくるぽん♪」
……今日も夜が来る。
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