あれはもう5年くらい前のことだ。最初にその手紙が届いたのは。ポストを開けたらちょっと古びた封筒が入っててさ。宛名が普通じゃなかったんだ。「いつかあなたのもとへ」ってだけ書いてある。差出人はなかった。
中を開けると、薄い便箋に短い文章が書いてあった。「待っています。また会える日を。」それだけだよ。最初はイタズラだと思ったけど、差出人も住所もなかったから、誰が出したのか全然わからなくてね。消印もないし、直接入れたのかな。でもそれなら見かける機会もあったはずなんだけど、おかしいな。まぁ、いいや。
次の月も同じような手紙が届いた。「準備ができたら、そちらに行きます。」内容は少しだけ変わってた。でも雰囲気は同じで。なんか変な話なんだけど、すごく丁寧な字だから誠実な印象を受けたんだよね。それから毎月1通ずつ、手紙が来るようになった。内容は全部似たり寄ったりだよ。
ある日、友達にその話をしたら、「ホラーだな、送り主は幽霊じゃない?」なんて冗談を言われて、正直、俺もだんだん気味が悪くなってきてね。でも、同時に何かがはじまるような、なんというか、期待感?みたいなのも正直あったんだ。
手紙が届き始めて3年目の夏、3年だよ。すごいよな。ずっと同じ調子だったメッセージにとうとう変化があったんだ。
「もうすぐ行きます。覚えていてください。」
この時は、さすがに背筋が寒くなった。もしかしてイタズラじゃなくて、本当に来るのかもって。
でも不思議と怖いだけじゃなくて、やっぱり少しだけ期待するような気持ちもあったんだ。新しい出会い、みたいな?
そして、その年の秋。手紙がぱったりと届かなくなった。結局その後も何も起きなかったんだ。なんにもだよ。3年も手紙が来てたのに。もしかしたら3年経ってようやく人違いだって気づいたのかな。それなら笑えるんけど。
ただ、今でも覚えてるんだ。最後の手紙にだけ、署名があった。「ようやくあなたのもとへ。◯◯より。」名前が書いてあったみたいなんだけど、濡れたあとみたなシミがあって読めなかった。
――で、あれから2年も経ったけど、未だに送り主はわからない。でもたまにポストを開けるとき、あの手紙のことを思い出すんだ。いつか会いに来るのかもっていう不安と期待感、をね。あ、もしかしてもう近くにいたりして。なんちゃってね。
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