「おい、見ろよ!」
友人のツヨシが興奮した声で俺を呼ぶ。指さした先にいたのは――青い鳥だった。
ただの青じゃない。夜明け前の空のような深い青、青い炎のように揺らめく羽。その存在感は現実味がなく、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだった。
「マジかよ……」
俺は思わず呟く。こんなきれいな鳥、図鑑でも見たことがない。もしかして新種で世界が大騒ぎになるかもしれない。こんなに青い鳥がこの町にいること自体が奇跡だ。
「捕まえるぞ!」
ツヨシがそう言うより早く、俺たちは駆け出していた。
――そして、奇跡的に捕まえてしまったのだ。
鳥は驚くほど大人しく、俺の手の中でじっとしていた。温かく、羽はまるで絹のように柔らかい。その青は、光の加減で微妙に色を変え、まるで生きた宝石のように輝いていた。もしかして童話に出てきた幸せの青い鳥ってこれのことじゃないのか。
「……なあ、これ、ヤバくね?」
ツヨシが息をのむ。俺も同じことを思っていた。ただの鳥じゃない、これはきっと何か特別な存在だ。どう言っていいのかわからないが、神様とかそういった犯し難い存在のような、そんな気がしてきた。
「売ったら、いくらになると思う?」
ツヨシが冗談めかして言う。俺は笑えなかった。手の中の鳥がじっとしているのは俺たちを試しているのではないか。子供じみた想像だが、いくつもの童話や昔話が頭をよぎった。神聖なものを犯してひどい罰を受けるいじわる爺さん。そんな話があったようななかったような……。
「そ、そんなことしたら呪われるかもしれない」
「いや、でもさ……」
ツヨシも言葉に反して不安そうになる。確かに、こんな鳥、見たこともない。どこかの金持ちが高値で買うかもしれない。俺たちはすごい有名人になるかもしれないし。でも、ものすごく嫌な予感もする。
その時、鳥が俺の手の中でふるりと震えた。
――はなして。
言葉にはならない声が、確かに聞こえた気がした。
俺は息をのむ。
「……ツヨシ、やっぱヤバいよ。こいつ、逃がそう」
「え?」
「なんか……かなり、その、よくない気がする」
ツヨシは不満そうに顔をしかめたが、俺が本気なのを察したのか、深く息をついて頷いた。
「……ま、そうだな」
俺はゆっくりと手を開いた。青い鳥は一瞬だけ俺たちを見つめ、そして羽ばたいた。
その瞬間、風が吹き抜け、青い羽が空に溶けるように消えていった。やはりただの鳥じゃなかった。いや、もしかしてそういう新種だったのかも? 正しい選択をしたような気がしたし、何か大きなチャンスを逃したような気もする。
「……誰も信じてくれないだろうな」
ツヨシがぽつりとつぶやく。俺も頷いた。写真くらい撮っておけばよかったかもしれない。
#123 青い鳥

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