#127 落ちてきた雲

ちいさな物語

朝、目を覚ました瞬間、異変に気づいた。

カーテンを開けると、目の前の景色に息をのんだ。空はびっくりするほどの快晴で、そこは別にいいのだが、問題は――雲がすべて落ちてきていた。

町中が、白くもこもこした塊で埋め尽くされている。電線も信号も、車も家の一部も、すべてがふわふわの雲に覆われていた。

「何だこれ……?」

外に出ると、近所の人々も騒ぎながら雲をかき分けて歩いていた。上空を見上げると、そこにはただ青空だけがぽっかりと広がっている。雲は一つも残っていない。

最初こそパニックになったが、人間は順応する生き物だ。

しばらくするとあちこちで「この雲、どうにか利用できないか?」という話が持ち上がった。

まず、料理人たちが雲を使った新メニューを開発した。フワフワの食感を活かした「雲のオムレツ」、綿菓子のような「雲のスイーツ」、果ては「雲鍋」まで登場した。雲はクセがなくてどんな料理にもよく合った。

次に、アパレル業界が動いた。雲を繊維化し、新たなファッション素材にする試みが始まったのだ。着てみると驚くほど軽くて温かい。「雲コート」や「雲スカーフ」は爆発的に売れた。それは風がなくてもふわふわと漂うように揺れ、これまでにない画期的なデザインが可能となった。

さらに、建築業界まで参戦した。雲を固めて新しい建材にする実験が進み、「空中に浮かぶ家」を建てようという計画が本気で持ち上がった。これはまだ開発中である。

雲が落ちたことで、街は一気に新時代を迎えたのだ。

しかし、ここで問題が起きた。

雲が消えた空は、雨を降らせなかった。毎日が晴天である。

雲がなくなったことで、大地は干からび、農作物は枯れ、人々は水不足に苦しみ始めた。

「雲を戻せないか?」

みんながそう考えたが、一度地上に落ちた雲は空には戻らなかった。さらに悪いことに、雲を食べたり加工したりしていたため、すでにほとんどが消費されてしまっていたのだ。

人類は自らの手で空を壊してしまったことになる。残ったわずかな雲の塊を抱え人々は途方に暮れた。

「どうすればいいんだ?」

答えられるものは誰もいない。

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