#166 隕石から生まれたもの

SF

ある朝、庭に見知らぬ隕石が落ちていた。
 
拳ほどの大きさのそれは、奇妙に脈動しており、気持ち悪いので触る気になれず放置していた。
 
数日後、その気持ち悪い隕石が割れて何かが生まれてきた。
 
それは透明でゼリー状のアメーバみたいなものだったが、僕がそれを見つめると、急にもごもごと波打ち、形を変え始めたのだ。そしてふわっとした毛が生えそろい、昔飼っていた小さな白い犬そっくりになった。
 
「何が起こったんだ?」
 
僕がそうつぶやくと、それはしっぽを振って僕を見上げ、小さな声で「キュウ」と鳴いた。その姿は本当に愛らしく、僕はすぐに心をつかまれた。もともとゼリー状の物体だった事実は頭からすっ飛んでいた。
 
僕はその生き物に「ルル」と名付け、かわいがった。
 
ルルは驚くほど賢く、僕の心を見透かしているように思えた。食事や遊び、散歩まで、まるで僕の「こうだったらいいな」という思いをそのまま実現したかのように振る舞うのだ。
 
驚いたことに母がルルを見ると、ルルはまたもごもごとうごめき、愛らしい子猫に変身した。妹が見ると、くったりと耳が折れたぬいぐるみのようなうさぎに変わった。
 
どうやら見る人の気に入るように姿を変えられるようだ。そこで僕はルルが何のために人間に愛されようとしているのか、ちょっとした不審感を持ってしまった。
 
よく考えたらルルは隕石から生まれたゼリー状の何かだった。地球外生命体だ。ルルを前にするとみんなその愛らしさに我を失ってしまう。これは何かあるのかもしれない。
 
やがてルルは町中の人気者になり、みんなが自分の理想のかわいい生き物を見ようと集まった。
 
けれど、僕は少しずつ疑惑を深めていった。だが、不思議なことに、ルルは人々にかわいがられるたびに、疲れていくようにも見えたのだ。
 
ある晩、庭で星空を見上げながら、僕はルルに尋ねた。
 
「きみ、本当は何をしようとしているの?」
 
ルルはじっと僕を見つめた。すると透明なゼリー状の姿に戻り、静かに僕の膝に乗った。僕の心にその感情が流れ込んできた。ルルは話をすることができないが、こうやって考えてくること「らしきもの」が流れ込んでくることがある。
 
「地球を侵略するつもりなの?」
 
僕がそう言った瞬間、ルルはかすかに震えはじめる。人間でいうと笑っているかのような振動だった。やがてルルは震えをとめると、空を見上げて小さな声で鳴いた……ような音を立てた。
 
「どういうこと? 人間の心をつかんで、地球を侵略するんでしょ?」
 
ルルからは何の感情も流れ込んでこない。僕はますます不安になった。
 
翌朝、庭に新しい隕石が落ちていた。
 
僕が驚いて見つめていると、それが割れて、ルルと同じゼリー状の何かが次々と這い出てくる。やはり地球を侵略に来たのだ。どうやら、あの夜、ルルは空に向かって鳴いて、仲間たちを呼んだらしい。
 
「ルル、どういうつもりなんだ。答えによってはきみたちを殺さなくちゃならないよ」
 
僕は庭掃除用のほうきを手にする。ルルたちは僕を取り囲み、透明なまま、なぜかうれしそうに揺れている。その中からルルが代表とでもいうように進み出る。
 
「ニンゲンの、ことば、おぼえた、よ」
 
僕はぞっとしてほうきの柄を握りしめる。
 
「われわれは、かわいいと、いわれたい。ニンゲン、かわいいっていう。だから、なかま、よんだ」
 
まさか、こいつら承認欲求のかたまり? 
 
「かわいいといわせるのは、侵略と同じ?」
 
ルルがまた白い犬の姿になり、僕の足元にまとわりつく。
 
「いや、そうともいえないけど……、本当にそれだけ?」
 
ルルとその他のゼリーたちから「それだけだ」という肯定の感情が流れ込んできた。

「かわいいって言うだけでいいのか?」
 
またゼリーたちからその通りだという肯定の感情が流れ込んでくる。
 
――こんな地球外生命体もいるのか。宇宙は広いなと思いながら、僕はかまえていたほうきをおろした。

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